MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2022.7.22

第18回 なぜ猫も杓子も教育現場にICTを持ち込もうとするのか

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

 

前回、今の世界の潮流がこのままであれば、子供たちはより厳しく辛い社会で生きることになると考え「今までのやり方を止めたいと考えています」と書きました。今回は私自身が子育て方針について「今までのやり方を止めた」具体例も含めて、ICTが子供たちの学びにどんな影響をもたらしているのか検討してみたいと思います。

 

スマートデバイスにはデメリットが多い

 日本のデジタル庁も文部科学省もICTを活用した教育を推進しています。ところが、スマートデバイスなどを利用したデジタル教育において成果がほとんど上がっていないということをご存じでしょうか。実は成果が上がっていないどころか、使えば使うほど子供の能力が低下する、というエビデンスが多数存在するのです。

 たとえば先行してICT教育を導入した韓国では、目立った効果がないどころか、問題解決能力が低下する、読書量が減少するなどの弊害が出ています※1

 実際OECDのレポートでは、学校にあるコンピュータ台数と数学力に負の相関(コンピュータが増えれば数学力が下がる)があることが示されており※2、授業中のインターネット使用頻度と読解力の関係性においても負の相関(授業中にインターネットを使用する頻度が高いほど読解力が落ちる)がられます※3

 さらに具体的に問題を深掘りすると、『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)の著者である東北大学の川島隆太教授が、仙台市在住の子供(5~18歳)224名の3年間の脳発達状況を計測したところ、インターネット習慣が多い小児は3年後広範な領域で大脳灰白質の体積があまり増加(発達)しないという研究結果が出ています※4。灰白質の増加は、より高度な脳活動の増加につながるものです。高度な知能に関わる前頭葉の発達は10代から思春期ごろまでがピーク※5のため、その時期にスマートデバイスを長時間使用させることは知的な子供を育てたい親にとっては一考の余地がありそうです。

 

テクノロジー企業のトップが自身の子供に使用を制限

 このような研究結果はありますが、実際にスマートデバイスを作っている側の人々は、自身の子供たちにどう向き合っているのでしょうか。

 マイクロソフト創業者ビル・ゲイツは自分の子供達が14歳になるまでスマートデバイスへのアクセスを禁止し※6、Appleの創業者スティーブ・ジョブズも自分の子供たちがテクノロジーを使う時間を制限し、iPadもiPhoneも触らせなかった※7そうです。他にもワイヤード誌の元編集長のクリス・アンダーソンも、自宅にある全デバイスに制限時間を設け親が管理しているなど、テクノロジー関連のCEOたちは、自分の子供たちがスマートデバイスへ接する機会を制限している、という事実がありま

 

スマホの依存性はヘロインに匹敵

 さらに、フェイスブックの「いいね」機能を開発したジャスティン・ローゼンスタインは「依存性ではヘロインに匹敵する」として、自身の携帯に利用制限を行うアプリをインストールしたという※8話もあります。

 久里浜医療センター北湯口孝臨床心理士は、ネット依存の疑いのある中高生が93万人、ネット依存予備軍といえる中高生が約160万人に上る可能性があるという厚生労働省のデータを示しながら、幼少期からの習慣的な使用は依存のリスクを高める危険性があり、親が過剰な使用を続けていれば子供はそれを学習してしまう場合もあるため、周囲の大人が使用を見直すことが必須である※9と指摘しています。

 

私が今までのやり方を止めたこと

 つまり、スマートデバイスを使用した教育は、子供たちへの目立った効果がなく、脳に悪影響を及ぼし、かつヘロイン並みの中毒性もあり、それらを作った人々は自分の子供に与えていません。このようなものを様々な場面で盲目的に、デジタル化推進の名の下で教育に活用することに、私は疑問を感じざるを得ません。自分の子供に対してというミクロ視点ではデメリットが多いものを、世界というマクロ視点においてどういう目的で普及させようとしているのでしょうか。

 これらのことから、私は自分の子供のICT機器使用について考え直し、制限をかけるようにしました。これが私が今までのやり方を止めたことの一つです。

 

※1 「ICT授業まだまだ弊害いっぱい!タブレット端末の教科書で学習効果を上げろ」 j-castテレビウォッチ
※2 OECD “Students, Computers and Learning: Making the Connection (Andreas Schleicher, (Director, OECD Directorate for Education and Skills)” P41
※3 OECD I Library. Fig. 6.4. “Trends in reading performance and proportion of students who frequently browse the Internet for schoolwork at school”
※4 「頻繁なインターネット習慣が小児の広汎な脳領域の発達や言語性知能に及ぼす悪影響を発見~発達期の小児の頻繁なインターネット習慣には一層のケアを喚起~」 東北大学
「過度のインタネット利用が子ども達の脳発達を阻害する 東北大学 加齢医学研究所 川島隆太」 子供の早起きをすすめる会
※5 「前頭葉の発達ピークは10代! 脳科学的に子どもの『ならいごと』を検証 発達のピークは部分で違う! 『幼児期の脳』基礎知識〔細田千尋先生インタビュー 第1回〕」 コクリコ
※6 「ビル・ゲイツ氏いわく『自分の子どもには14歳になるまで携帯を持たせなかった』」 gigazine
※7 「ジョブズは自分の子どもにiPadもiPhoneも触らせなかった」 現代ビジネス
※8 「ジョブズやゲイツも恐れた『スマホ脳』 どうしたら避けられるのか!?」 j-cast会社ウォッチ
※9 北湯口孝,樋口進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター) 第66回日本小児保健協会学術集会 教育講演 「子どものスマホ・ゲーム依存」

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