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ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2024.1.12

第24回 AI時代に子供の創造性を育む方法

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

 

生成系AIの進化は著しい速度で進行しています。そして我々の仕事に関わることも増えてきているため、親としては子供たちにとってどのような影響があるのか心配になることと思います。情報の海に溺れることなく、AIという道具を適切に活用する方法を、子供たちにどのように教えるべきでしょうか?本記事では、AI時代に生きる子供たちが直面するであろう課題と、それに対処する具体的な解決策を共に探求したいと思います。私たち親が今、子供の創造性、コミュニケーション能力、自己決定力を育てるためにできることを考えてみましょう。

 

AIを単なる情報源ではなくツールとして活用

 スマートフォンやSNS同様、子供たちがAIに過度に依存して安易に答えを求めると、独自の深い思考力や想像力が育ちにくくなります。この課題の解決にあたり、Bloom2シグマ問題1に関する研究は示唆に富んでいます。この研究は一対一の指導が従来の教室での学習よりも効果的で、学生の成績を平均より2シグマ(偏差値20)向上させることが可能であることが示されています。

 今まで個別指導は高額な家庭教師や塾を活用しなければなりませんでしたが、この原理をAIと子供の関係に適用することで、AIを単なる情報源ではなく、創造性を刺激するツールとして利用できます。例えば、AIから子供の知識レベルに合わせ質問をさせて、その後に自身の考えを深める機会を与えることが可能です。これにより、子供はAIの情報を活用しながら批判的思考と創造性を養うことができます。

 親が子供の学習過程に積極的に関わることも重要で、一対一指導の効果を最大化することができます。子供が独自のプロジェクトを考え、AIとの対話を通じてブラッシュアップするなどの実践的な活動も創造力を育むのに有効です。

 

AIにばかり依存せず現実世界での遊びを活用

 子供たちがAIやデジタル機器に夢中になると、現実世界での経験時間が減るため、コミュニケーション能力や社会的スキルの習得時間も減少することになります。このような状況が対人関係の構築に困難をもたらすこともあるため、親としては、AIやデジタル機器の使用と現実世界での交流のバランスを見つけることが重要です。解決策として、定期的な家族での対面活動を増やすことが効果的です。

 アメリカ小児科学会(AAP)の報告によると、遊びは子供たちの健康と発達に重要な役割を果たします。例えばアウトドア活動やボードゲームなどの家族での遊びは、子供たちのスキル学習、身体的強さの発達34、近視リスクの低減5、脳の発達6、ストレスや不安、抑うつの軽減7など多くの利点があります。これらの活動を通じて、子供たちは計画立案、組織化、他者との交流を学び、感情調節、言語、数学、社会的スキルの能力向上にも寄与します。

 

AIへの過信を避け自己決定能力を育成する

 AIが多様な答えを提供してくれることに加えて、自由エネルギー原理8で示される脳の省エネ機能によって、子供たちがAIの答えを盲信し、自らの深い思考を行わなくなるリスクがあります。AIの情報や推薦をそのまま受け入れることは容易ですが、AIにはハルシネーション(事実に元づかない情報を生成すること)の問題もあり、批判的思考力の不足と自己決定能力の減退を招く可能性があります。

 親としての役割は、子供たちがAIを効果的に活用しつつも、自立して考え、自信を持って決定できるよう支援することではないでしょうか。これを実現するためには、AIの利点と欠点を親が理解し子供たちに使い方を教えると共に、自ら考えることの重要性を子供たちに伝える必要があります。さらに、子供たちに日常の小さな選択を任せることも効果的です。

 子供の自己決定能力に関する研究9は、子供や青少年が意思決定に関わることが重要であると強調しており、これにより情報量が増え、未知への不安が減少し、自己決断に自信を持つことができるとされています。例えば、食事のメニューや週末の活動の選択を子供に任せることで、自信を持って自分の選択をする力を育成できます。このアプローチは、子供たちがAIの情報を盲信せずに、自分で考える力を養うのに役立ちます。

 

AIと共存しつつ自らの人生を切り開く

 AIが発達した時代において子供たちの健全な発達を促すためには、テクノロジーとの適切なバランスを見つけることが不可欠で本文では、AIを用いた一対一の指導で、子供たちの理解を深め、独自の思考力と創造性を養う機会の可能性を説きました。半面、家族での対面活動や屋外での遊びを通じて社会的スキルを育成し、子供たちの意思決定を促し、自立心と自信を育てることも重要です。AIが完璧でないことを理解し、子供たちに批判的な情報評価のスキルを身に付けさせることで、AIの過信を避け、健康的なテクノロジー利用を促進することができます。このようなアプローチに親が積極的に関わることで、子供たちはAIとの共存を学び、自信を持って自らの人生を切り開く自立心を身につけることができるでしょう。

 

参考文献

※1 “Bloom’s 2 Sigma Problem.” Wikipedia, Wikimedia Foundation, 9 July 2023

※2 Yogman, Michael, et al. “The power of play: A pediatric role in enhancing development in young children.” Pediatrics, vol. 142, no. 3, 2018, .

※3 “Outdoor Play and Children: Benefits and Why It Matters.” Medical News Today, Medi Lexicon International, Accessed 2 Jan. 2024.

※4 “The Benefits of Outdoor Play: Why It Matters.” Children’s Hospital of Philadelphia, The Children’s Hospital of Philadelphia, 3 Oct. 2019

※5 Dewar, Gwen. “12 Benefits of Outdoor Play (and Tips for Helping Kids Reap These Benefits).” PARENTING SCIENCE, 29 June 2022

※6 Teare, Jack. “The Benefits of Outdoor Play for Children’s Development.” Teaching Littles, 17 May 2023

※7 Mcarter. “The Benefits of Outdoor Activities for Children’s Development.” Omega Care, 21 Sept. 2023

※8 乾 敏郎 “知覚・認知・運動・感情・意思決定をつなぐ自由エネルギー原理” 日本神経回路学会誌, vol. 25, no. 3, 2018, pp. 123–134

※9 Smith, Karen E., and Seth D. Pollak. “Children’s value-based decision making.” Scientific Reports, vol. 12, no. 1, 2022

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