MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2024.4.12

第25回 やりたいことを存分にできる学校・社会

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

 

今回は私が考える子供たちにはやりたいことを存分にやらせてあげたいという考えを中心に、今後の学校や社会のあり方などの方向性について考察します

 

自主性と興味主導の学習

 最初に、私には子供に限らず人類全員が、やりたいことを存分にやって良いどころか、皆自分の選択した結果を享受し続けているだけではないか、という考えがあります。大人は自分の思考と選択の結果が現象世界に表出していることに気づけば変えることもできますが、子供たちはしばしば親や教師の意向によって自分たちのやりたいことから遠ざけられがちです。

 やりたいことばかりすること学習につながらないとの誤解がありますが、実際には子供たちが自発的に関わる活動は、創造性や問題解決能力などを育む重要な機会となります。例えば、アート、パズル、野外活動、読書、音楽演奏、スポーツなど、多岐にわたる興味に基づく活動※1は、知的、身体的、感情的な発達を支えます。このように、自主性を重んじた教育は子供たちの多面的な能力を引き出し、彼らが真に情熱を感じることに集中できることに繋がります。

 

忘れてはいけない休息の重要さ

 また、私の考える「やりたいこと」には睡眠も含まれます。米国睡眠医学会は、小学生は9~12時間、中高校生は8~10時間の睡眠時間の確保を推奨しています※2。しかしながら、日本人の多くは睡眠が足りていない状態で、特に幼少期においては睡眠不足による海馬の減少とそれに伴う将来の影響が懸念されるため、脳の発達という面からも存分な睡眠は重要です。

 

やりたいことをやる効果

 子供たちが自分の興味に基づいて活動することは、自主性、内発的動機付け、学習効果の向上に寄与します。これは自己決定理論(※3 ※4 ※5)によって支持されており、人々が自主的に行動する際に感じる満足感が、積極的な学習態度と結果に繋がることを示しています。このアプローチにより、子供たちは自分自身で考え、行動する能力を養い、同時に学習への興味と幸福感を高めることができます。「やりたいことをするのは学習ではない」という古い教育観に反して、自由に選択し行動することは、子供たちの全体的な発達に総じて有益な影響を与えます。

 

どんな教育システムが必要になるのか

 では、それを実現する社会に必要なシステムはどのようなものでしょうか。目指すのは、子供たちの個々の興味や特性、自主性に焦点を当てた柔軟な教育方法を採用するものです。従来の一斉教育とは異なり、このアプローチでは子供たちの興味の深掘りから始まり、様々な特性テストにより、それぞれの子供の特徴や強み、好みに合わせてカスタマイズされた学習方法の構築が行われます。また、必要に応じて家庭でのオンライン学習や、特定の分野に特化した教育施設の利用も含まれることで、より多様な学習スタイルをサポートします。このシステムでは、個別のニーズに合わせた教材の提供や、適切な技術の活用により、一人ひとりの興味の深掘りを最大化することを目指します。

 

日々の生活の中にあるロールモデル

 親が子供に対して示す生き方や働き方は、子供たちにとって強力な学習機会となります。親が日々の生活の中で情熱を持って取り組む姿勢や、挑戦に直面した際の乗り越え方を見せることは、子供たちにとって重要な教訓となり得ます。このように、親の姿勢は子供たちが社会で生きていく上での貴重なロールモデルとなるのです。

 これに加えて、社会全体としても、子供たちが様々な職業や活動を直接見学できる機会を提供することで、彼らの学びと理解を深め、多様な生き方や働き方を身近に感じることができ、将来の可能性を広げることにつながります。このアプローチにより、大人と子供の距離が近い社会となるでしょう。

 教育が子供たちの自発的な興味と才能に基づいて行われる社会では、学校での学習、実生活、そして将来の仕事が密接に結びつきます。このような教育システムでは、単に知識を伝えるだけではなく、生徒一人ひとりの興味や能力を探求し、より深く物事を理解できるようにし、それを社会的、職業的な文脈で活かすことが可能になるでしょう。

 

参考文献
※1  【小学生1000人調査】夏休みに行きたい場所は? 3位は遊園地、2位はキャンプ、1位は… HugKum(はぐくむ).(2022, July 9)
※2 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会. (2023, December 21). 健康づくりのための睡眠ガイド 2023 (案) P15. Ministry of Health, Labour and Welfare. Retrieved April 2, 2024, from https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf
※3 Wang, C., Cho, H.J., Wiles, B. et al. Competence and autonomous motivation as motivational predictors of college students’ mathematics achievement: from the perspective of self-determination theory. IJ STEM Ed 9, 41 (2022).
※4 Johansen, M. O., Eliassen, S., & Jeno, L. M. (2023). The bright and dark side of autonomy: How autonomy support and thwarting relate to student motivation and academic functioning. Frontiers in Education (Lausanne), 8.
※5 Applying Self-Determination Theory to Education selfdeterminationtheory.org. (n.d.).

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