MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2024.7.19

第26回 NVIDIA GR00Tがディスラプトする世界

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

NVIDIAがProject GR00Tというヒューマノイド型ロボットの汎用基礎モデルを発表しました。仕事のあり方が一変するような技術の登場に対して、教育のあり方も見直す必要があります。そのような状況の中、日本のSTEAM教育は正しい方向性に進んでいるのか、考察してみました。

 

STEAM教育の意義と日本における展開

 STEAM教育とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)の5つの分野を統合※1し、子供たちに幅広い知識とスキル、創造性を身につけさせる教育方法です。理論と実践を結びつけ、実際の問題解決能力を養うことを目指しています。

 日本におけるSTEAM教育は2010年代から注目され始め、文部科学省の「未来の学びコンソーシアム」設立を契機に科学技術教育の重要性が再認識されました。技術革新の進展と国際競争力の維持・向上のため、創造力や問題解決能力を育む教育が求められ、学校教育や企業との連携、地域社会の協力を通じてSTEAM教育が広がっています。

 STEAM教育は、その特性からロボティクス、アートとデザイン、データサイエンス、バイオテクノロジーなど多岐にわたる分野に役立つ教育方法ですが、現状では、まだまだ科学技術に重点が置かれているように感じます。

 STEAM教育がより本領を発揮するのは、何事も子供たちの興味を引き出し、学びたいという意欲を高める方向に進むことだと考えます。そのためにはまず、子供たちの特性をよく観察し、子供たちが興味を持っている分野に焦点を当て、その興味を深める手助けをすることが重要です。次に、理論だけでなく実際のプロジェクトや実験を通じて経験を通じて学ぶ実践的な学習が大切です。最後に、失敗から学ぶことも重要な経験であり、子供たちが新しいことに挑戦しやすい環境を作ることが求められます。

 反対に、一方的な指導に陥らないように注意が必要です。教師が一方的に教えるだけでは、子供たちの主体性が育たず、逆効果となってしまいますそのためにも、対話やディスカッションを丁寧に行うことが重要です。また、過度な競争も避けるべきです。競争が激しすぎると、学びの楽しさが失われることがあるためです。加えて、他者とのコミュニケーションの重要性を教えることが求められます。

 

筋力を鍛えてもブルドーザーには勝てない

 先日NVIDIAはProject GR00Tというヒューマノイドロボットの汎用基盤モデルを発表しました※2。このモデルは自然言語を理解し、人間の行動を観察して動きを模倣することができるため、普及により様々な産業、特に肉体労働や単純作業等の業界でディスラプト※3が起こると思います。

 ただ、GPTやヒューマノイド型ロボットはツールであり、計算結果を出力しているに過ぎません。1年以上様々な生成系AIを使って感じるのは、生成系AIは便利ですが、単に計算しているだけで、実際には何も思考していないということです。ですので、まずは人間の感覚や意志、創造性を優先すべきで、教育の方向性としても子供の意志をどう実現するかをベースに逐次検討することの重要性は変わらないと考えます。

 今までお話ししてきたSTEAM教育を含めた学校教育は、まだまだ知識の習得と思考にフォーカスしているように思えます。しかし、ブルドーザーに負けまいと穴を掘るために筋力を鍛えても意味がないのと同じく、大量の情報処理、迅速な模倣や回答、24時間稼働、多言語対応、特定分野の専門知識、感情に影響されない一貫したパフォーマンスなど、GPTやヒューマノイド型ロボットの特性を真似して強化しようとしても、個人としての競争力や人生における幸福感や充実感を得ることには繋がらないのではないかと思います。

 

感覚へのフォーカスが武器になる

 そこで私は、思考を止め感覚にフォーカスすることが重要だと考えます。思考を止め、感覚に集中することは、ストレス軽減、注意力と集中力の向上、創造性の向上、そして全体的な幸福感の向上に寄与すると、多くの研究で理解されています。

 有名な例として、Appleの共同創業者であるスティーブ・ジョブズやAlphabet(Googleの親会社)のCEO サンダー・ピチャイも禅やマインドフルネスなどの手法を使って感覚にフォーカスし、直観力や想像力を高めています。

 具体的には、自分のやりたいことを人生で実現したい場合、それを想像した後にリラックスし感覚に集中すると、インスピレーションが湧いてきて、その通りに行動することで実現への道が開かれます。こういう遊び方もあるので、学校で「動」(=思考)を行った後は、家などで「静」(=思考を止め、感覚に集中)を実践するのも効果的な方法です。これからの時代には、GPTやヒューマノイド型ロボットにはない自身の感覚にフォーカスして、他とは一線を画す唯一無二の存在になることが大切だと考えます。

 

※1 https://steam-japan.com/about/
※2 https://www.nvidia.com/ja-jp/about-nvidia/press-releases/2024/foundation-model-isaac-robotics-platform/
※3 (編集注)ある業界のルールが再定義され、既存の価値を一気に時代遅れにしてしまうこと。

 

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