MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2024.10.25

第27回 ヒューマノイドロボットの数が人類の数を超えるとどうなるか

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

今回は、前回紹介したNVIDIAが発表したGR00Tプロジェクトを深掘りし、ヒューマノイドロボットが私たちの生活にどのような変化をもたらすのかを考えてみましょう。例えば、イーロン・マスクは、今後ロボットの数が人類を上回ると予測していますが、少し先の未来にそのような世界が実現した場合にどうなるのか検討してみたいと思います。

 

ヒューマノイドロボットがいる日常

 家に帰ると、玄関でロボットが子供の勉強を見ています。そして、掃除や洗濯といった日常の面倒な仕事は彼に任せることで、趣味にもっと時間を割けるようになるかもしれません。必要な買い物も、リストを伝えるだけでロボットが済ませてくれるようになるでしょう。もちろん、自分で料理を楽しみたい場合や、子供と犬の散歩をしたいときは、自分で行えばよいのです。ロボットは私たちの日常を奪うのではなく、より使い勝手の良い道具として活用できる可能性があります。

 ヒューマノイドロボットの最大の魅力は、人間と同じ環境で自然に活動できることです。川崎重工業の「Kaleido」は、災害現場や危険な作業環境での活躍が期待されています。JR西日本とベンチャー企業「人機一体」が共同開発した「零式人機 ver.2.0」は、高所作業を遠隔操作で行える画期的なロボットで、2024年から現場導入が予定されています。これにより、労働災害のリスク軽減が期待されています。さらに、より汎用的なモデルにTeslaの「Tesla Bot(Optimus)」があります。2023年に発表された第2世代モデルは、工場での組立作業や物流の自動化を目指すとされています。製造業にとって、24時間稼働可能なロボットは生産性向上の鍵となるでしょう。

 とはいえ、ヒューマノイドロボットは機能にもよりますが高額になる可能性があるため、ヒューマノイドロボットのシェアリングエコノミーサービスが登場することも考えられます。高級車やアクセサリーを時間単位でレンタルするように、ロボットを必要なときだけ利用し、高収入の仕事に派遣して収益を得るといったビジネスモデルも生まれてくるかもしれません。

 

ロボットで未来はバラ色?

 日常の面倒な家事も仕事もロボットに任せられるというのは、バラ色の未来のように思えます。しかし、未来が全てバラ色というわけではありません。第26回「NVIDIA GR00Tがディスラプトする世界」で指摘したような特定業界での過激な変化に加えて、ロボットの大量導入、エネルギー消費の増加や希少資源の枯渇といった地球レベルの課題を引き起こします。例えば、レアアースの供給不足はロボットの価格上昇を引き起こし、資金力の格差が得られる恩恵を左右する可能性があります。また、エネルギー需要の増大も深刻な問題です。

 この問題に対処するため、The Heritage Foundationが提案したように、原子力エネルギーの革新と小型モジュール炉(SMR)の開発・普及が期待されています。SMRは従来の原子炉よりも小型で安全性が高く、エネルギー供給の安定化を図る手段として注目されています。これにより、ロボットやAIのエネルギー需要のひっ迫を抑えることができるかもしれません。

 しかし、その場合でも核廃棄物の問題は解消しなければならない課題になるでしょう。さらに、2023年度の世界の自動車生産台数ですら1億台を下回るのに、82億台ものヒューマノイドロボットを製造する金属やプラスチックなどの資源は莫大な量になると推測されるため、エネルギー効率の高いロボットや資源を節約する設計、リサイクルや循環型経済の推進など、無数の技術革新が必要になることは想像に難くありません。

 環境のためと推進されている太陽光パネルですら様々な問題が露見している中、ヒューマノイドロボット普及に関しても、予め打てる手は講じておくことが賢明ではないでしょうか。今回は、ヒューマノイドロボットが普及した未来を少し考察してみました。皆様が未来を考え、今を生きる一助になれれば幸いです。

 

参考:
川崎重工、人型ロボット『Kaleido』の開発
テスラが人型ロボット「Optimus」の第2世代を発表、「第1世代より30%速く歩く」「指の動きが超なめらか」「踊れる」など性能を示すムービーも公開 – GIGAZINE
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