MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2018.10.26

第3回 2040年の学習テクノロジー《解説編》

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

 

前回は2040年の中学生エウクの日常生活を想像しました。今回からはそれを支える未来の技術やそれに伴い教育がどのように変わっていくのかを考えていきたいと思います。

 

エウクが学習を始めるのは2030年ごろ。そのころには、今後10年で飛躍的な発展が予想されるマーケティング技術により、求めているものがより適切なタイミングでレコメンドされるようになっています。そのおかげでエウクの両親も、高度人工知能やゲーミフィケーションを活用した教育商材の発展とその効用を、本人たちが知るべき適切なタイミングで深く理解することができました。エウクもその両親も特別優秀な人物ではないにも関わらず、エウクは集中力を継続しつつ楽しく自発的に学びを深められ、両親は理解状況を確認しながら適切なタイミングで必要なツールを選択、購入することができました。

現在、アルツハイマーや認知症などの治療薬として研究開発が進む医薬品やiPS細胞、がん治療や身体のモニタリングなどで臨床試験の最終段階にあるナノマシン(ナノメートルスケールの微小サイズの機械)が、2030年代後半には、機能が増強した上に、治療だけではなく、一般的な能力向上用として使われはじめると考えられます。

2040年には脳内で記憶や学習のサポートをするナノマシンが普及するとの予測を元に「インナーコネクト(InnerCONNect)」、通称アイコンというナノマシンを作中に登場させました。ナノマシンが詰まったカプセルと増殖用のゼリーを一緒に飲み込むだけで体内で自己増殖し、自律的に脳まで到達、各種機能が展開される仕組みになっています。

機能には個人のアイデンティティ防御、記憶・認識・思考のサポート、感覚制御による痛みの軽減やホルモン制御による回復促進を含む身体制御サポート、医療サポート、視覚への情報追加、外部との通信、それらを統括する人工知能なども実装されるでしょう。現在でも、記憶サポート用の埋め込みチップは商用化プロジェクトが進行していますし、脳とコンピュータとで通信を行うBMI(Brain Machine Interface)の研究では脳波などで直接ロボットを操作する技術が実現しています。

現在のスマートフォンとそのアプリ同様、アイコンは様々な業者が競ってリリースする人気商品になるでしょう。業者によってパッケージの内容や機能、そして販売価格も異なり、定期的なメンテナンス費用がかかることもあるかもしれません。ただ、それなりの金額がかかるとしても、他の子供が使い始めて圧倒的な知能を獲得し始めているのに、自分の子供に使わせないという選択は親として難しいと思われます。

アイコンを使うことで記憶が鮮明になり、思考の解像度も集中力も上がり、認識の圧倒的な拡大もできるため、学習や思考はよりスムーズで楽しい行為となるはずです。

そもそも学習とは、体験や伝聞などにより経験を蓄えることです。中でも繰り返し行う学習を練習といいます。脳神経に繰り返し刺激が伝達されることで練習の成果が定着するわけですが、アイコンはこの過程を半自動化することができます。そのため学習の完了は選択の問題となり、そこに気合いや根性は必要なくなっていくでしょう。加えてアイコン内外で記憶の保存も可能になるため、脳内に情報を溜め込むための学習は意義を失っていきます。

これらの技術は学習のあり方を大きく変革します。学習における障害がなくなり、エウクが朝の準備の合間に易々と論文を読んだように、本人が望みさえすれば高度な情報へのアクセスが容易になっているでしょう。次回は、これらの技術が具体的にどのように学習をサポートし、知能を強化するのか、その方法について考えてみます。

 

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