MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2021.4.2

第13回 小学校英語で新しい学力はどのように評価されるのか?

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

 

ペーパーテストに留まらない評価

学習評価は、「子供たちにどういった力が身に付いたか」という学習の成果を的確に捉え、教師が指導の改善を図るとともに、子供たち自身が自らの学習を振り返って次の学びに向かうことができるようにするために重要です。

2020年度からスタートした新学習指導要領に対応した学習評価では、評価の観点が「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点になりました。これらのバランスの取れた学習評価のためには、パフォーマンス評価※1を取り入れ、ペーパーテストに留まらない、多面的な評価が必要です。

(参考 3.学習評価の在り方について:文部科学省 (mext.go.jp)

※1 パフォーマンス評価とは(中略)知識や技能を使いこなすことを求めるような評価方法の総称です。単なる実技テストと異なり、子供たちが「何がどの程度できるようになったか」についての判断が可能となるように評価規準と評価基準が明確化された目標と評価を一体化して示されています。(西岡 2021 より抜粋)

主体的・対話的で深い学びを実現するパフォーマンス評価(1)学びに向かう力の育成 | 教育新聞 (kyobun.co.jp)

一方、音楽や体操、フィギアスケート等と同様に、外国語科におけるパフォーマンス評価においても、評価規準をもとにして教師が見たり、英語を聞いたりして点数をつけます。以下は、『指導と評価の一体化のための学習評価に関する参考資料 小学校外国語・外国語活動』の「She can run fast. He can sing well.(第5学年)」から「話すこと[発表]」における評価の例です。 「イ 自分のことについて、伝えようとする内容を整理した上で、簡単な語句や基本的な表現を用いて話すことができるようにする。」ことが関係する領域別目標とされていて、単元の評価規準は表のように記載されています。

表 本単元における「話すこと[発表]」における評価規準

知識・技能

思考・判断・表現

主体的に学習に取り組む態度

<知識> I/He/She can ~. Can you ~? など、自分や相手、第三者ができることやできないことを表す表現やその尋ね方、答え方について理解している。
<技能> I/He/She can ~. Can you ~? など、自分や相手、第三者ができることやできないことを表す表現などを用いて、自分の考えや気持ちなどを含めて話す技能を身に付けている。
相手に自分や第三者のことをよく知ってもらうために、自分や第三者ができることやできないことなどについて、自分の考えや気持ちなどを含めて話している。 相手に自分や第三者のことをよく知ってもらうために、自分や第三者ができることやできないことなどについて、自分の考えや気持ちなどを含めて話そうとしている。

 

また、評価例としては次のように記載されています。

「話すこと[発表]」(思考・判断・表現)(主体的に学習に取り組む態度)の評価例(第7・8 時)

【評価場面】
活動内容:インタビュー結果をもとに先生ができることやできないことを、グループ内でペアを替えて複数回、自分のことや感想も含めて話す。アドバイスし合い、改善をして次時のスピーチの準備をする。また、第8時の Activity5では、相手を見つけてペアになり、スピーチをする。

【評価方法】
行動観察

【評価例】
児童1の発表
Hello, everyone. This is Tanaka sensei. She can play the piano. I can play the piano, too. Can you play the piano? She can play the drums. I can’t play the drums. I like music. I can cook. I like curry and rice! Thank you.

児童2の発表
Hello. Hori sensei, this is Hori sensei. He can run fast. … Nice. I, … I can’t run fast. He can swim. I can’t swim. I don’t like swim. I don’t like sports. Thank you.

児童3の発表(第7時)
Hello. Okada sensei, Okada sensei.(似顔絵を指しながら) She can … tennis. Nice! Tennis, OK. Good. (テニスをするジェスチャーを付け,ガッツポーズもしながら) She … can … swim. I can … swim. Yes, swim!(OK のマークを手で示しながら)

児童3の発表(第8時)
Hello. Okada sensei, Okada sensei.(似顔絵を指しながら) She can play tennis. I can play tennis, too. I like tennis. Nice! Tennis, OK. Good. (テニスをするジェスチャーを付け,ガッツポーズもしながら) She … can … swim. I can swim. Yes, swim!(OK のマークを手で示しながら)

・児童1は、第7時に、自分や第三者のことをよく知ってもらうために、既習語句や表現を使って、先生ができることに関連したこと以外にも、I can cook. I like curry and rice! などを加えて、自分ができることやできないことなどについて話していた。さらに、聞き手に Can you play the piano? と質問をしながら話していた。また、1回目のペアとの紹介では She can play the drums.という紹介が伝わりにくかったため、2回目のペアとは、ジェスチャーも交えて相手に伝わっているかを確認しながら紹介していた。あらかじめ決めていたことだけでなく、自分自身で修正しながら相手に話そうとしており、実際に話しているので、「思考・判断・表現」及び「主体的に学習に取り組む態度」において「十分満足できる」状況(a)と 判断した。

・児童2は、第7時には、自分のことについて話していなかったり、つまりながら紹介している姿が見られたりしたが、グループの友達からのアドバイスを生かして練習した、第8時の Let’s Read and Write では、音声について言った後に自分でも言い直して練習していた。第8時の Activity5では、自分や第三者のことをよく知ってもらうために、間違いはあるものの既習の語句や表現を使って、先生ができることと関連して、自分ができることやできないことなどについても話そうとしており、実際に話しているので、「思考・判断・表現」及び「主体的に学習に取り組む態度」において「おおむね満足できる」状況(b)と判断した。

・児童3は、第7時において、自分や第三者のことをよく知ってもらうために、自分や第三者のできることを何とか伝えようとしているので、「主体的に学習に取り組む態度」において「おおむね満足できる」状況(b)と判断した。しかし、その目的に向けて既習の表現を用いてコミュニケーションを行う目的や場面、状況に応じて話すことに課題が見られたので、「思考・判断・表現」においては「努力を要する」状況(c)と判断した。そこで、そのあとのスピーチの準備をする際や、第8時の Let’s Read and Write や Let’s Chant で、児童 3 に Can you ~? と尋ね、その答えに応じて、指導者が I can ~. I can’t ~. と自分のことを加えて言ったり、I can play the piano. I can play soccer. の表現を何度も聞かせたりした。第8時 Activity5において、改善が見られたので、「思考・判断・表現」において「おおむね満足できる」状況 (b)と判断した(文部科学省 2020:63-64 下線筆者)。

 

評価が分かれたポイントは?

詳しく見ていくと、児童1(a)の判断は、自分や第三者のことをよく知ってもらうために、①「先生ができることに関連したこと以外にも発話文を加えて、自分ができることやできないことなどについて話していたこと、②ジェスチャーも交えて相手に伝わっているかを確認しながら紹介していたこと、③自分自身で修正しながら相手に話そうとしており、実際に話していることが挙げられます。

一方、児童3(c)の判断は、自分や第三者のできることを何とか伝えようとしていましたが、既習の表現を用いてコミュニケーションを行う目的や場面、状況に応じて話すことに課題が見られたことが挙げられています。

コミュニケーションの目的や場面設定が大切であり、それを意識しながら状況に応じて自分の気持ちを伝えることができる学習を行うことが大切です。

(編集部注:高橋美由紀先生は2021年4月より、鈴鹿大学こども教育学部 教授に転勤となります)

 

Anup

 

Category カテゴリ―