2020年度からの新学習指導要領で小学校の英語教育が拡充されました。そこでは「実際に英語を用いた言語活動を通して」学ぶことが重要とされています。そのための学習方法の一つとしてヨーロッパで広く採用されているのがCLIL(Content and Language Integrated Learning :内容言語統合型教授法)。シンガポール日本人学校(チャンギ校)での優れた実践例を紹介します。
CLILの4Cと新学習指導要領
前回、CLILの概念として、Content(内容), Communication(言語), Cognition(思考), Culture(文化)の4Cを紹介しました。一方、学習指導要領に掲げられている外国語活動・外国語教育の目標では、児童生徒のコミュニケーションを図る資質・能力を育成するために、「知識及び技能」「表現力・思考力・判断力」「学びに向かう力・人間性等」の三つの柱が明確に示されています。知識・技能が、実際のコミュニケーションにおいて活用され、「課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむこと」や「主体的に学習に取り組む態度を養い、個性を生かし多様な人々との協働を促す教育の充実に努めること」が学習の目標として明示されています。また、言語活動で扱う題材(内容)として、児童の興味・関心に合ったものとして、他教科で児童が学習したことを活用することが大切であるとも述べられています。新しい学習指導要領とCLILの4Cには大いに共通点があるのです。
シンガポール日本人学校(チャンギ校)での例
今回は、児童が興味・関心を持ち、他教科の学習を活用する例として、家庭科の学習を英語で行っているシンガポール日本人学校(チャンギ校)の小学校家庭科授業「お好み焼きを作ろう!」をご紹介しましょう。
はじめに、教師が作成した絵じてん(下図)で、調理に必要な語彙 peer, break, pour, star, chopを教師の動作を見ながら児童がその動作の真似をして、絵じてんを見ながら、音と文字と動作で語彙を理解します。
お好み焼きの手順について、教師の示す調理方法の動画を見ながら、児童は使われている具材と調理方法を理解します。
次に、あらかじめ配布されている「手順についての説明」として、以下の10文が書かれた用紙に、再度、児童はパソコンの画面を見ながら1~10の番号を書き入れます。そして、各自が書き入れた番号を見せ合いながら、児童一人一人が個人で行った聞いて理解する活動から、グループで話し合う活動へとつなげていくことができます。
Put the flour in the bowl.
Mix the flour with the chopsticks.
Wash the cabbage.
Slice the cabbage with the knife. And add in the bowl.
Break the egg in the bowl.
Mix the egg with the whisk.
Grind the yam with the grater. And add in the bowl.
Slice the ham with the knife. And add in the bowl.
Sprinkle the bonito flake.
Add the mayonnaise and the sauce.
児童の言語活動として、インプットから気づきを与えて、理解させ、アウトプットへとつなげるために、気付かせる工夫、容易に理解させるための教師の工夫が多くみられました。
児童が手順について番号を入れた後に、答え合わせもかねて、教師が正しいお好み焼きの作り方を、児童に視覚教材をみせながら再度説明します。
1. Break the egg in the bowl.
2. Mix the egg with the whisk.
3. Put the flour in the bowl.
4. Mix the flour with the chopsticks.
5. Wash the cabbage.
6. Slice the cabbage with the knife. And add in the bowl.
7. Grind the yam with the grater. And add in the bowl.
8. Slice the ham with the knife. And add in the bowl.
9. Add the mayonnaise and the sauce.
10. Sprinkle the bonito flake.
児童達は、画面で見た「お好み焼き」の完成品を見て、グループごとに「お好み焼き」について話し合いをしています。
様々なCognitionやCultureの学びへと深める
CLILの概念の、Content(内容)は家庭科の調理の内容、 Communication(言語)は、お好み焼きのレシピを通しての語彙や作るプロセスにおける言語活動を通して教師と児童のやり取りや友人同士での話し合いで使う言語など、Cognition(思考)はお好み焼きを知らない外国人に伝えるための手順や方法等について、また、相手意識を持って相手の好きなお好み焼きの材料を使っての作り方、材料を入手できる場所や金額等について考察する他、「なぜ『山芋』を材料として使うのか?」等についてや、ホットプレートの適切な温度について、様々なCognitionが考えられます。 Culture(文化)については、日本の食文化として「お好み焼き」を発信することですが、それを踏まえて「関西風」「広島焼」等、地方によってさまざまな「お好み焼き」の違いや、家庭においても異なる「お好み焼き」について、グループで話し合い、クラスの友人と「ALTの先生にお勧めしたいお好み焼き」等のテーマで話し合うこともできます。
さらに、お好み焼きの具材を使って、教科書に掲載されている下記のような栄養素のグループ分けをして食べ物について、例えば、「栄養バランスが良いお好み焼きとは?」等、児童が課題を持ってお好み焼きを作る=深める活動になると思います。
他教科との統合的な学びから英語を学ぶ意義を理解
この栄養素のグループ分けは、給食等の献立表にも掲載されていると思いますので、児童のために、栄養士の先生が三要素について考えて毎日の給食の献立を作成して頂いていることが認識できると思います。
さらに、発展的な活動として、日本の食糧事情について、家庭科だけでなく、算数で学んだ数字・割合、社会での調べ学習等を統合的に活用して、食材の自給率についての活動もCLILで行うことができます。外国からの輸入に依存して日本の日常の食生活が成り立っていることを児童が理解した時に、「世界共通語としての英語を学ぶことの意義」も理解できると思います。