MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2022.10.21

第19回 2024年度より「学習者用デジタル教科書」の「英語」が導入される!

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

 

5~中3でのデジタル教科書先行導入が決定

 2022826日、文部科学省は「『GIGAスクール構想』を通じて、学習環境を改善し、学校教育の質を高めていくためには、デジタル教科書の活用を一層推進する必要がある。」として、2024年度から、現場のニーズの高い「英語」で小学校5年生から中学校3年生にデジタル教科書を先行導入することを決定しました。

 既に学習指導要領では教育の情報化の重要性が謳われています。教科書は、これまで印刷されたものを前提としていましたが、2019年度から、「一定の基準の下で、必要に応じ、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用できる制度」が実施されています

 「10回 英語教育で真価を発揮するデジタル教科書」でもデジタル教科書のメリットに触れましたが、今回は文部科学省「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」に沿って、2024年度の導入が決まったデジタル教科書のより具体的な活用方法を紹介します。

 

文部科学省「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」:3

 

学習者用デジタル教科書を活用した学習方法

 学習者用デジタル教科書を使用することで、紙の教科書よりも様々な学習方法が可能になります。文部科学省は以下の3パタンの学習方法を挙げています。

() 学習者用デジタル教科書を学習者用コンピュータで使用することにより可能となる学習方法

・ ペンやマーカーで書き込むことを簡単に繰り返す
・ 書き込んだ内容を保存・表示する 等
・ 機械音声で読み上げる 等

()学習者用デジタル教科書を他の学習者用デジタル教材と組み合わせて使用することにより可能となる学習方法

・音読・朗読の音声等を教科書の本文に同期させつつ使用する
・教科書の文章や図表等を抜き出して活用するツールを使用する
・教科書の紙面に関連付けて動画・アニメーション等を使用する
・教科書の紙面に関連付けてドリル・ワークシート等を使用する 等

()学習者用デジタル教科書を他のICT機器等と組み合わせて使用することにより可能となる学習方法

・大型提示装置や教師用コンピュータに児童生徒の教科書の画面を表示する
・児童生徒の書き込みや検索情報を教師や児童生徒間、さらには家庭で共有する等

(文部科学省「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」:8より抜粋要約)

 

小学校外国語科教育における学習者用デジタル教科書のメリット

 文部科学省は、2021年度「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業」を実施しています。

小学校外国語 令和3年度「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業」 – YouTube

 学習者用デジタル教科書を活用することで、児童一人一人に適したペースで、外国語科の目標である「外国語による『聞くこと』『読むこと』『話すこと』『書くこと』の言語活動を通して、コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を育成すること」ができると思います。また、児童が自ら理解できるまで何度も視聴することができるので、主体的に学ぶことができます。

(1)音声・動画機能

 デジタル教科書の「音声読み上げ機能」を活用すれば、児童は自分に合った速度で語彙や表現の音声を繰り返し聞いて、確認することができます。そして、英語独特のリズムやイントネーション、語と語の連結による音の変化等を、何度も聞いて、その音声を真似、発話につなげることができます。また、「動画・アニメーション機能」では、コミュニケーションを行う場面・状況を視聴でき、英語の表現を使う場面を一人一人がコミュニケーションの場面を想像し理解できるまで視聴することができますコミュニケーションの自然な発話を繰り返して視聴することで、発話部分を児童自身に置き換えて練習すれば、実際のコミュニケーション場面で使うことができるようになると思います。

①実際のコミュニケーションの場面での言語活動

 例えば、この実証研究事業で使用されていた教科書にあるデジタル教科書の「動画・アニメーション機能」を活用した言語活動では、登場人物が地図を見ながら、世界の国々とそこでできることを話したり、行ってみたい国とその理由を伝え合ったりしています。

 児童は、登場人物のやり取りを何度も視聴し、彼らの表現を真似て、“I want to go to Peru next.” “I want to see koalas and kangaroos.”等を練習します。そして、これらの表現を使って、「行きたい国」、「したいこと」等、児童の伝えたいことを発話することへとつなげます。このような言語活動を通して、児童の思考力・判断力・表現力を育成することができます。

②「音声学習」を踏まえて「読む活動」へとつなげる

 これまで小学校から中学校への接続で課題となっていた「文字学習」についても、デジタル教科書を使用することで、言語外情報を伴って示された語句や表現を推測して読む活動ができ、読むことの目標である「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現の意味が分かるようにする」(『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』p.78)指導ができます。

Here We Go!5 p.72-73 デジタル教科書より

 

(2)書き込み・保存機能

 学習者用デジタル教科書には、書き込み機能があります。一人一人がリスニング問題の解答や学習した文を書く練習、発表する時に提示する等で使うことができます。書き込み機能を活用すれば自分の考えや友達の考え視覚化できるので、友達が書き込んだ内容を読んだり、自分の考えを伝えたりすることもできます。また、それらの保存も可能で、児童は学習過程で気付いたことや発話につなげたいことなどを直接教科書に書き込み、保存して、発表する時や友人との会話時に自分が書き込んだ内容を提示して、話すことができます。

 小学校学習指導要領で求められている「英語で書かれた文、又はまとまりのある文章を参考にして、その中の一部の語、あるいは一文を自分が表現したい内容のものに置き換えて文や文章を書くことができるようにすること」の指導にもデジタル教科書を活用することができます。

 下記の例は、「行きたい国インタビュー」の活動で使用するために、自分の行きたい国を書く活動や「行きたい国のポスター」を作成して、国を紹介する活動です。児童はデジタル教科書を活用して、何度も書く練習をした後に、友達に見せるためのポスター作成をすることができます。

Here We Go!5 p.77・p.79 デジタル教科書より

さらに、保存した内容を、過去の学習を振り返るポートフォリオとして活用することもできます。児童自身が学習を振り返り、「できるようになったこと」「今後の課題」等を確認することで、主体的に学習に取り組む態度の育成につながると思います。

 

(3)特別な支援が必要な児童に対してのサポート

 教科書の紙面を拡大して表示できるので、学習者に適した大きさに拡大して学ぶことができる等、教育的ニーズに応じた効果的な学習方法で、一人一人が学ぶことができます。

 

Anup

 

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