グローバル化の進展に対応して、日本でも国際社会で通用する英語力が求められています。2020年度の次期学習指導要領の改訂にともない、小学校では3・4年生から外国語活動が週1回(1回=45分)、5・6年生では英語教育が週2回導入される予定です。実施までの2年間は移行措置期間となります。
このコーナーでは小学校英語教育に詳しい高橋美由紀先生(愛知教育大学大学院教授)が、新しく導入される3・4年生の外国語活動と5・6年生の英語教育について、保護者の方々の不安にお答えしていきます。
<Q3> 3・4年生でも始まった小学校英語の新制度。どこまでできるようになればいい?
2020年度新学習指導要領では、中学年では年間35時間(1時間=45分)の外国語活動が必修になります。その移行期として、今年度から中学年では年間15時間行われています。
新学習指導要領では、外国語は実際に言葉を使うこと(「言語活動」)を通して学習することが重視されます。中学校での目標として、「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「書くこと」の4技能を通して「情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力」の育成が掲げられています。
これを受けて、外国語教育(5・6学年)では、「コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力」を、外国語活動(3・4学年)では、「コミュニケーションを図る素地となる資質・能力」を育成することを目指します。
4技能(5領域※)のそれぞれで、「英語を使って何ができるようになるか」の目標が明確に示されています。しかしながら、外国語活動は音声中心の学習なので、「読むこと」「書くこと」の目標はありません。
外国語活動の「聞くこと」では、ゆっくりとはっきりと話された際に、身近で簡単なことがらについて聞き取ることができるようにすることや、「話すこと(やりとり)」では、簡単な表現を用いてあいさつをしたり、指示をしたり、動作を交えながら自分の考えや気持ちなどを伝え合うようにすることが目標として掲げられています。
ただ、3・4学年児童の多くは初めて外国語に触れるわけですから、目標への到達をどのように測るのかに工夫が必要です。英語を聞いて絵カードを指し示したり、言葉で応えることができない場合には動作やジェスチャーで反応したりする活動を行なうことにより、正確に理解しているかどうかが分かります。また、コミュニケーションの場面を設定して、視覚教材や実物教材を使いながら自分のことや日常生活について、伝える相手のことを考えながら話すことができるようにすることも大切です。
一方、「文字の指導」は「聞くことの領域」で、「ウ 文字の読み方が発音されるのを聞いた際に、どの文字であるかが分かるようにする。」と示されています。実際の授業では、教師の発話を聞いて「文字カード」を取る活動や、聞いた文字を指でさしたりする活動、歌を活用した活動などがあります。例えば、BINGOの歌を使った活動では、あらかじめ「B」「I」「N」「G」「O」と文字カードを並べて歌い、BINGOのところでは、その絵カードを発話しながら指し示します。次に、「B」のみ裏返しておき、児童はBINGOの歌を歌いながら、裏返したカードの所では、発話の代わりに手を叩きます。歌に合わせて手を叩けるかどうかで、文字とその読み方を認識しているかどうかがわかります。
※「話すこと」は「話すこと(やりとり)」「話すこと(発表)」の2領域
<Q4> 5・6学年で新しく始まった外国語教育。小学校の現場の様子を教えてください。
高学年でもこれまでの2倍の年間70時間が予定されていますが、移行期としては年間50時間の外国語教育が教科として導入されています。
高学年の外国語教育では、外国語活動での学習を踏まえ、また、中学校に円滑に繋げるための学習を行ないます。「聞くこと」では、ゆっくりはっきりと話されれば、日常生活に関する身近で簡単な事柄について、短い話の概略を捉えることができるようにすることや、「話すこと(発表)」では、身近で簡単な事柄について、伝えようとする内容を整理した上で、自分の考えや気持ちなどを簡単な語句や基本的な表現を用いて話すことができるようにすることが掲げられています。
文部科学省が作成した教材『We Can!』を使った例を紹介します。「聞くこと」では、映像を見て登場人物が話す内容をメモをとりながら聞く活動や、話の概要をつかむ活動等があります。「話すこと(発表)」では、自分の将来の夢やヒーローについて語る活動等が挙げられます。「話すこと(やりとり)」では、「簡単な語句や基本的な表現を用いてその場で質問をしたり質問に答えたりして、伝えあうことができるようにする」ことが示されています。
以前の外国語活動では、会話といっても定型表現を使ったやりとり程度でした。それに対して、外国語教育では、自分の気持ちや考えを表現すること、会話の即興性が求められています。私も指導助言者として今年度の授業を参観しました。「Do you like ~? Yes, I do.Ilike ~.」の表現を使い、自分が選んだ好きなものと同じものが好きな友達をさがす活動では、発話した友人に「really?」「Me, too!」など相槌を上手く入れたり、次の会話に繋げるための表現を用いてより長く会話を楽しんでいる児童たちの姿が見られました。
一方、文字指導については、これまで中学校英語のスタートで行われていた「アルファベット文字」の読み書きを、小学校段階で行なうことになります。そして、音声で慣れ親しんだ文字での文字活動とするために、多くの小学校では「絵の下に文字が書かれている絵カード」を中学年から使用しています。外国語教育では、この絵カードを使って、「cat」「dog」等の単語や「He can ~.」「I want to be ~.」等の定型表現で「文字をなぞる活動」「文字を書き写す活動」等を行なった後に、各ユニットの例文を参考にして、基本的な表現を用いて文を書けることが目指されます。
現在1,000人の「英語専科指導教員」が小学校で教えています。この専科指導教員は、授業時数増となる担任教師を支援し、中学年からの質の高い英語教育を実施し、中学校へと円滑に接続することを目的としています。これまでの担任主導の外国語活動から専科指導教員が付く教科へと、開始年齢、時間数、指導内容および指導者のレベルアップ等、小学校の英語が大きく改革されています。