2020年度に教科化された小学校外国語(5・6年生)では文部科学省検定済みの教科書が使用されています。今年4月、2024年度から使用する教科書が紹介されました。新しい教科書は現在の課題点の改善が見られます。では、どのように改訂されたのでしょうか? 現在の教科書と比較してみましょう。
教科書のサイズ・ページ数について
現行の教科書サイズはAB版(210×257mm)が5社、A4版(210×297mm)が2社でしたが、新教科書では、AB版が2社、A4版が4社となり、より大きいA4版が多くなりました。ページ数は、AB版からA4版にサイズを変更した『Junior Sunshine』と『CROWN Jr.』の2社が減少しましたが、『Blue Sky elementary』が増加しました。
別冊辞書Picture Dictionaryについて
現行では、『NEW HORIZON Elementary English Course』のみ「絵辞典」を別冊にしていましたが、新教科書では、Work bookやCan do list等と一緒にして「絵辞典」を別冊にした会社が増えました。また、『Blue Sky elementary』や『ONE WORLD Smile』、『Here We Go!』は巻末に「絵辞典」が掲載されており、『Here We Go!』は絵辞典を別冊として取り外すことができます。
児童が本当に伝えたいことや表現したい内容にする活動に取り組む時に、「教科書に示されている表現や文の一部(語彙)を替えて、話したり書いたりする活動」を行います。その時に、絵辞典が別冊である方が、教科書と絵辞典のページを同時に開いて、「言葉を選ぶこと」が容易にできます。
語彙数の増加について
語彙数については、『NEW HORIZON Elementary English Course』や『Junior Sunshine』が100語以上増加し、『CROWN Jr.』『Blue Sky elementary』も40語程度増加しています。一方、『ONE WORLD Smile』は107語、『Here We Go!』は22語減少しています。6社平均では32.1語増加し、735.6語となります。
学習指導要領では、小学校で600~700語程度の語彙を学習することが示されています。これらは、聞いたり読んだりすることを通して意味が理解できるように指導すべき語彙(受容語彙)と、話したり書いたりして表現できるように指導すべき語彙(発信語彙)があります(文部科学省2018『小学校学習指導要領解説』:89-90)。
児童が自分の考えや気持ちを表現したり伝え合ったりする活動を行う時に、「本当に伝えたい」語彙が教科書になかった場合は、ALTに尋ねたり、辞書等で調べて言語活動を行っています。語彙数が増えることで、より実際のコミュニケーションの場に近づけることができるのですが、発信語彙数の増加は、児童の負担が増え、英語嫌いが増加することも懸念されます。したがって、文部科学省が示している「600~700語程度」が望ましいと思います。
ICT活用について
2024年度から外国語(英語)科では、学習者用デジタル教科書が先行導入されます。キーボードを使っての活動だけでなく、個別学習と協働学習の両面から新教科書では「QRコード」の案内が掲載されています。児童はQRコードを読み取って、繰り返し見たり聞いたりできるので、いつでもどこでも英語の学習ができます。新教科書には、タブレット端末を使用して話すこと、①Show & Tell (画像や写真を提示して話す)での発表、②意見交換や交流活動でのやり取り等に活用している場面も掲載されています。また、タブレット端末を活用する利点や具体的な活用方法について言及されている教科書もあります。
『NEW HORIZON Elementary English Course』では、「コンピューターを学習にいかそう!」など学びを広げるためのコンテンツが紹介されています。例えば、①デジタルコンテンツの目次、②Digital Dictionary(別冊My Picture Dictionaryの単語を見たり音声を聞いたりできる)、③Digital Map(日本や世界の情報を掲載)など。
『Here We Go!』では、「ICTを活用しよう」にて、ノートパソコンやタブレットを上手に使って英語の学習を楽しむことについて、①やり取りに役立てよう、②自分で自分を録画してみよう、③地域の名物を紹介し合おう、④動画を見て、意見を共有しよう、⑤思い出の絵日記を共有しよう、⑥中学生と交流してみよう、の6件の事例と具体的な内容が掲載されています。
児童の興味関心が高い、身近で実際のコミュニケーションの場面の設定
新教科書では、デジタル教科書を活用することを前提にして、Unit毎にストーリー仕立ての構成となっています。児童と同年代の主人公がアニメーション動画に登場し、自然な言語活動の場面で「実際に英語を使ってコミュニケーションをする」場面・目的が提示されています。そのため、児童はコミュニケーションの内容を容易に理解し、興味をもって言語活動に取り組むことができ、登場人物の表現を児童の実際のコミュニケーションの場面において活用することができます。
ワークシート形式が多く、文字を読むこと、書くことが増加しています。
例えば、現行の教科書採択率1位のNEW HORIZON Elementary English Course 5 Unit1では、①自分の名前をローマ字で書くことと「I」を英語で書くこと、②音声に慣れ親しんだ文字や語彙「色と食べ物の絵カード」「like」を識別する活動、③音声に慣れ親しんだ文字や語彙「色と食べ物の絵カード」「like」を読む活動、④「自分の似顔絵」を描く、「色と食べ物の絵カード」を置くというように視覚教材を手掛かりとして「話す活動(やり取り)」を行っています。
一方、新教科書では、絵を描く、カードを置く等の活動から文字を読むこと、書くことを重視した活動に替わっています。語彙については、現行の「色・食べ物」だけでなく、「教科・スポーツ・食べ物・動物」等増加しています。また、表現についても現行では「I like ___.」のみでしたが、「I like ___.」「I don’t like ___.」「Do you like ___?」 が同ページに掲載されており、このような表現を使って音声で慣れ親しんだ後に、読むこと、書くことへとつなげていく活動が増えました。
また、CAN-DO評価では「単語の発音-文字の音を手がかりにして、慣れ親しんだ単語が読める。」ことを評価します。
また、現行採択率第2位のHere We Go! 5 Unit9でも、例えば、クイズゲームの「話すこと(やり取り)」について、現行の教科書には出題者と解答者のセリフは文字化されていませんでしたが、新教科書では「He is a singer./ He is very kind./ He can sing well.」等、音声から文字を認識し、読むことの活動へとつながっています。また「書くこと」については、現行の教科書では、My teacher’s name を書き、その後に、active, brave, cool, friendly, kind の語彙から選んで「書き写す」ことでしたが、新教科書では、「絵辞典から語を選んで文を書き、自らが書いた文を読む活動」が掲載されています。児童が主体的に取り組んで、語彙を選んで文を「書くこと」、その文を「読むこと」の活動ができます。