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ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2024.1.19

第24回 ICTを活用して英語を「音読」で学ぶ

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

2024年度から外国語科では学習者用デジタル教科書が導入され、ICTを活用した英語学習の更なる充実が期待されています。今回は、外国語科の授業と家庭学習でICTを効果的に活用し、児童のコミュニケーション能力が向上した事例として、岐阜県羽島郡笠松町立笠松小学校5年生の効果的なデジタル教科書と授業支援アプリのロイロノート・スクールの活用法を紹介します

 

ICT活用3つの利点

 外国語科のコミュニケーション活動は、教科書に掲載されているユニットの目標にそって、児童がグループで発表したり、ペアでのやり取り等を行っています。ICTが活用される以前、児童の英語能力にはばらつきがあり、教科書に掲載されている表現を見ながら「セリフ」として発話したり、児童が発話したい表現をカタカナで書いてその文を読んだり等、コミュニケーション活動には程遠い児童が多くいました。

 外国語教育におけるICT活用の利点は、(1)写真やイラスト等により、児童が日本語を介さずに英語のまま理解することや、発音や表現のモデルを示すことにより、児童が体感的に習得することができます。(2)言語活動・練習として、児童の言語活動で活用するための音声・文字・語彙・文構造・文法などの定着(繰り返し練習)や、一人一人の能力や特性に応じた学びの機会の確保ができます。さらに、(3)外国語を話す場面を録音・録画し、児童自身が活動を振り返ったり繰り返したりすることができます。※1

※1 外国語の指導におけるICTの活用について (mext.go.jp)

 

2時間では利点(1)まで

 中学校の英語科の活用例として、「音読練習において、学習者用デジタル教科書とネイティブ・スピーカー等が話す音声(学習者用デジタル教材)を組み合わせて使用すること」が示されています※2

 しかしながら、小学校の授業は週2時間(1時間=45分)であり、授業の始まりに一斉に歌やチャンツを聞いて発話する活動では、個別の能力に対応した授業は困難でした。また、教科書にある課題を行うことで、児童がコミュニケーションをするために活用できる表現を習得できる十分な時間は取れませんでした。したがって、ICTの利点の(1)は可能でしたが、(2)言語活動・練習のためには、家庭学習等、授業以外で行うことにしました。

※2 『学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン附属資料』(文部科学省 2021:15)

 

国語科の「音読」を応用

 児童が自信を持って楽しく「英語でコミュニケーション活動」をするために、5年生の担任(武仲美樹教諭、高井千恵教諭)の協力を得て、国語科で実施している「音読」を外国語科でも実施しました。

 はじめに、児童はQRコードから学習者用デジタル教科書の音声を聞きながら、自分のペースで音声を止めたり、同じ箇所を繰り返し聞いたりする等の活動を行い、納得いくまで正確な音声に何回も触れることができました。次に、本文を黙読したり,少し遅れて音読(シャドウイング)したりすることで、音のつながりなどに留意しながら練習することもできました。最後に、ロイロノート・スクールを活用して、児童が音読した様子を画像で録画し、提出しました。なお、録画は児童が満足できるまで撮りなおしができるため、その日に児童が一番良いと思う録画を送っていました。

 児童が提出した録画は担任と英語科講師が、チェックして児童に返しました。児童が提出した録画に赤で「はなまる」「Excellent!」「Very good!」「good!」「Well done!」等の評価をすることで、児童は励みになりました。また、児童自身が満足できるまで練習し、録画を送ることは、「主体的に学習に取り組む態度」とりわけ、「粘り強く学習に取り組む態度」としても評価できるでしょう。なお、提出期限はロイロノート上で通知設定できるので、毎日提出期限を設けて、10月から12月の冬休み期間も毎日練習を続けています。

 

主体的にコミュニケーションを図り自分の学びを深める

 先日、「道案内をしよう」というコミュニケーション活動を行いました。教室をオリジナルタウンにして、ペアで道案内をする児童Aと道を尋ねる児童B以外の児童が「stadium」「supermarket」「aquarium」「flower shop」「convenience store」等の絵カードを持ちました。

 これまでと異なった点として、全ての児童が教科書やプリントを持たないで、コミュニケーション活動を行いました。そして、実際のコミュニケーションの場面として、児童Aは児童Bに、自分が尋ねたい場所を児童たちが持っている絵カードの中から選んで、「Where is the convenience store?」等と尋ねました。一方、道案内をする児童Bは自分の考えた方法で道案内をしました。したがって、ユニットのゴールである「Where is the post office?」「Go straight for two blocks.」「Turn right. You can see it on your left.」の基本表現だけでなく、自分の言葉で話すことにこだわり、「Go straight just a little bit.」等、その場に応じて臨機応変にコミュニケーション活動をしていました。

 このように、インプットを学習者用デジタル教科書で多く行い、ロイロノート・スクールでアウトプットを支えるための学習を行ったことで、児童が主体的にコミュニケーションを図り、自分の学びを深めていく授業を行うことができました。

 

Anup

 

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