今回も前回に引き続き、今年度から使用されている新教科書の文字の指導についてです。新教科書で力点が置かれている、児童が「書きたい」「書いてみたい」と思うような動機づけや主体的な学びを促す授業づくりが実際にどのように実践されているのか、新教科書と鈴鹿市立神戸小学校 岡井崇教諭の授業を例に見ていきましょう。
「書き写す活動から書く活動へ」
学習指導要領の「書くこと」では「イ 自分のことや身近で簡単な事柄について,例文を参考に,音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を用いて書くことができるようにする。」が目標として掲げられています。また、〔思考力,判断力,表現力等〕における「言語活動及び言語の働きに関する事項」では、(エ)相手に伝えるなどの目的をもって,名前や年齢,趣味,好き嫌いなど,自分に関する簡単な事柄について,音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を用いた例の中から言葉を選んで書く活動が示されています (文部科学省 2018:112-113)。
これらから「書くことのポイント」は、コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、児童が大文字、小文字を活字体で書いている状況や、音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を書き写している状況、自分のことや身近で簡単な事柄について、音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を用いて書いている状況となります。
「伝えたい気持ちを高める」学び
「書く活動」は、児童が主体的に取り組め、文字を書く楽しさや喜びを体感できるような言語活動を行い、同時に、言語学習として、英語の文字や単語への認識、語順の違い等の文構造への気づき等を促す活動が必要になります。
5年生の教科書には、自分の名前を文字で書くことの言語活動をはじめ、友だちに伝えるために、「好きなこと」「得意なこと」「誕生日」等について、以下の「思考ツール」の様に、デジタル教科書の書き込みスペースをワークシート化したものがあります。子ども達は自己紹介をするための準備として、それぞれの枠内に英語や日本語で書くことができます。
学習者用デジタル教科書・指導者用デジタルブックのご案内 (tokyo-shoseki.co.jp)
一方、6年生の教科書では、「好きなもの」「宝物」「その理由」をペア―で紹介し合う言語活動を行い、音声で十分慣れ親しんだ後に、「自分の名前や宝物」を書くことが示されています。その時に、児童自身が既習の語彙やPicture Dictionaryから選んで「自分の大切な宝物」について英語で書くことができます。語彙を選んで「書き写す活動」は、機械的に書き写すのではなく、児童が自分で選んで書くことで主体的に取り組むことができます。
鈴鹿市立神戸小学校 岡井崇教諭の授業では、6年生の新学期のクラス替えをした学級で「書く活動」を取り入れた言語活動を行いました。
先生は、黒板に
Today’s Goal 「自己紹介文をつくろう」
(1) 自己紹介文を書く
(2) 発表資料をつくる。
(3) 練習
と書きました。
そして、(1)の自己紹介文を書くために、ワークシートを配布しました。
ワークシートは、児童の発表を前提として、以下の文が記載されていました。児童は英文をなぞり、下線部には、得意なことや興味のあることの語彙「singing」,「cooking」,「swimming」,「running」等の中から自分の得意なことを選んだり、自分の気持ちや思いを伝える表現を付け足しの文で書きます。
Hello, My name is .
I’m from .
I can .
I’m good at .
(付け足しの文)
(さらに、付け足しの文)
Thank you.
「自己紹介文をつくろう」の活動は、発表準備のための原稿作成ということで、文字を書く必然性があります。そして、絵辞典から語彙を選んで書き写す活動や例文(第26回参照)の一部を書く活動、自分の考えた文を書く活動等があり、児童の伝えたい思いや気持ちを高める言語活動が実践されていました。
このように文字を書く楽しさや喜びを体感できるような言語活動を行うためには、児童に目的意識を持たせ、彼らの興味・関心のある内容で音声に十分に触れた後に、(1)モデル文を見ながら、絵辞典等から語彙の一部を選んで書き写す活動から、(2)文全体を書き写す活動、(3)自分で考えた文を書く活動へとスモールステップで学習を進めることが大切です。さらに、岡井先生の授業のように、「書いた文」を音声として、クラスの友だちの前で発表することにより、「音」と「文字」、「内容」を関連させた活動となります。
(文部科学省 【外国語活動・外国語編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 (PDF:6KB):112)