MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2025.1.17

第28回 日本に在住する外国人との異文化交流・ホームビジット事業「まちなか留学」

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

世界の教室をつなぐ英語学習・国際交流プラットフォーム「WorldClassroom」を展開する沖縄県の企業が、2020年から「まちなか留学」という国内ホームステイ事業も実施しています。児童・生徒が関東・沖縄県内に共住している外国人の家庭に滞在し、日本にいながら気軽に留学体験を味わうことができるプログラムです。今回は、この「まちなか留学」をレポートします

 

不安ながら興味津々——まちなか留学スタート

 筆者は、2024年10月5日「まちなか留学」のオリエンテーションに参加ました。当日の留学参加者は、関東地区の中高一貫校の中学生で修学旅行としての企画だそうです。ホストファミリーを待っている、生徒にインタビューしたところ、「英語が通じなかったらどうしよう!?」「初めて外国人家庭を訪問するので、楽しみ!」等、ホームステイに対する興味・関心度は高い反面、「言葉の壁」に不安を感じている生徒も多数いました。

 はじめは、ホームステイの受け入れ側の外国人家庭(ホストファミリー)と、留学参加者である生徒たちの顔合わせです

 ホストファミリーの方々は、国籍と名前、番号の書いてあるカードを生徒に提示します。英語圏だけでなく、世界中の様々な国籍の方々がホストファミリーとしてこのプログラムに参加しており、生徒たちは2名1組で番号カードを持って、お互いに番号カードがマッチしたところで、座って自己紹介を始めます。言語は世界共通語である英語です。授業等で外国人と話した経験はあっても、外国人家庭に滞在し家庭の一員として生活することは、ほとんどの生徒が初めての体験です。

 生徒たちは、最初はホストファミリーの人々が話す英語が聞き取れなかったり、どうやって話そうかと戸惑ったりしていました。ホストファミリーの方々が、生徒たちが理解できる速度でゆっくりと話してくれたり、生徒も話しながらジャスチャーをしたり、指で指し示したりして、なんとかコミュニケーションを図ろうとしていました。苦手意識よりも、「絶対に英語でコミュニケーションが図れるようにしたい!」といった生徒のモチベーションの高さ感じられました。

 次第に、ホストファミリーと生徒たちが打ち解けて、夕食のことや滞在中にしたいことについて楽しそうに話していました。ホスト側の子どもも一緒に参加している家庭では、遊びを通して仲良くなった生徒もいました。やがて、オリエンテーションが終了する頃には生徒たちはすっかりファミリーの一員として、話が弾んでいました。

 参加者へのインタビューでは
——こうして外国の方とずっと英語を話していることが楽しい
——早くホームステイ先に行きたい
——実際にホストファミリーの人と話してみて、英語を話すことに少し自信がついた
——絶対にステイ先では(一緒にステイする友達とも)『英語で話そう!』と誓いました!

等、前向きな意見ばかりでした。国籍の異なるホストの方が大勢いたことで、「世界の多くの人々と交流したい」との思いや、国際共通語である英語コミュニケーション力を身に付けようとするモチベーションもかなり高いと感じられました

 

無意識的・瞬発的な英語力が身に付く

 「まちなか留学」にはこれまでに、全国から2歳から80歳が参加していて、小学生でも参加ができます上の写真は、ホームステイ先での様子です。最初は「言葉の壁」による不安を感じていたと思いますが、少しづつ外国の暮らしに溶け込み、英語でコミュニケーションを図れるようになったことで、みんな笑顔に満ち溢れていますね。

 公式Webサイトを見ると「初めは少し緊張していたけれど、ホストシスターと一緒にゲームをすることで、打ち解けることができた」「英語の環境に入ったことで、体験後もしばらく英語で話していたりしました」と小学校6年生の参加者・根木さんの体験談あります。(挑戦が自信に!まちなか留学で新しい文化に出会う | まちなか留学 | 東京と沖縄で留学!

 学習指導要領の小学校高学年の言語活動の例には、「話すこと(やり取り)」「(ア)初対面の人や知り合いと挨拶を交わしたり,相手に指示や依頼をして,それらに応じたり断ったりする活動」や「(ウ)自分に関する簡単な質問に対してその場で答えたり,相手に関する簡単な質問をその場でしたりして,短い会話をする活動」が挙げられています(文部科学省 2018, p.171)。第二言語習得理論においても、英語を無意識的・自動的・瞬発的に使えるようにするためには、実践の場を多く持つことが効果的であることがわかっています

 留学参加者たちは、たとえ国内であっても、ホームステイをすることで24時間英語環境に浸ることができ、このような言語活動を自然に身に付ける第一歩となるでしょう

 

多文化共生時代の高度な学び

 さらに、「多文化共生」の視点から、ホームステイには、その家庭の言語文化に触れるという意義があります先述した根木さんのホストはインド国籍で「日本にいながら食事や食べ物等、インドの生の文化を体験した」と話しています挑戦が自信に!まちなか留学で新しい文化に出会う | まちなか留学 | 東京と沖縄で留学!)。

 言語文化については、「教科書」「様々な文献」「音楽」等から得られた知識だけでなく、ホストと一緒に生活することにより、実際の体験を通して他文化を知る(習得する)ことで、ホストの国の言語文化をより深く習得できると思います。また、得られた知識を踏まえて、その言語文化に身を置くことで、より英語を使うことの楽しみを十分に味わうことができるでしょう

 小学校学習指導要領には、中学年「(3)外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め,相手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニ ケーションを図ろうとする態度を養う」、高学年「(3)外国語の背景にある文化に対する理解を深め,他者に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う」が掲げられています(文部科学省 2018, p.168)。

 根木さんのように、ホストファミリーとの交流や体験学習を通して、留学体験をただの楽しい体験にするだけでなく、異文化理解や自己理解といったより高度な学びにつながる経験ができたと思います。

 「まちなか留学」は1泊から参加できるため、土日や祝日などを利用して気軽に留学体験ができます。小学生でもホストファミリーと「英語で何かをやってみる!」ことを通じて、児童生徒の英語への関心を高めます。英語嫌いの子供が英語好きになるケースが多いそうです。

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