MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2018.10.19

第3回 小学校英語レポート 小学生だからこそできる授業

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

グローバル化の進展に対応して、日本でも国際社会で通用する英語力が求められています。2020年度の次期学習指導要領の改訂にともない、小学校では3・4年生から外国語活動が週1回(1回=45分)、5・6年生では英語教育が週2回導入される予定です。実施までの2年間は移行措置期間となります。
このコーナーでは小学校英語教育に詳しい高橋美由紀先生(愛知教育大学大学院教授)が、新しく導入される3・4年生の外国語活動と5・6年生の英語教育について、保護者の方々の不安にお答えしていきます。

 

移行期の教科英語がスタート

新学習指導要領の移行期として2018年4月から、小学校3・4年生に「外国語活動」が、5・6年生に「外国語教育」が始まりました。教材として『We Can!』(高学年用)と、『Let’s Try!』(中学年用)が配布されています。

今回大きく変った点は、小学校高学年から中学校・高等学校・大学と一貫した教育として、外国語による「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やりとり)」「話すこと(発表)」「書くこと」の言語活動を通して「〇〇ができる=Can do」という目標が設定されたことです。

高学年の児童にとって、単に楽しいだけの活動やドリル的な活動、ゲームのための活動ではなく自分が行なっている活動の意義や達成感を味わうことができる活動を行なうことが大切になります。

 

中学校への繋がりと小学生ならではの内容

それでは、実際の児童の様子をお伝えするために、6月に行なわれた愛知県岡崎市立本宿小学校(福田貴子校長)6年生の『We Can! 2』Unit3「He is famous. She is great.」1時間目の授業を観てみましょう。

この単元の目標は、

・「主語+動詞+目的語」の文の語順に気付き、自分や第三者について聞いたり、言ったりすることができる。

・語順を意識して、自分やある人について紹介したり、例を参考に紹介する文を書いたりする。

・他者に配慮しながら、第三者について伝え合おうとする。

です。

授業は、挨拶の後に3グループに分かれて、担任やALTが絵カードを示しながら英語でたずね、児童が順番に答えるといったやりとり(Small Talk)から始まりました。これは毎時間の活動ですが、今日のトピックは「自己紹介」です。

次に、「自己紹介カード」を作成しました。「I like…,  I play…,  I have…,  I want…」などの文に続けて、児童は自分のことを伝えるための単語を選んで書きました。選ぶ単語が見当たらない場合には、ALTなどにたずねて、その単語や表現を教えてもらい、書き写しました。文字指導は1年生から導入されていることから、児童らに「文字を書くこと」の抵抗感はありません。「自己紹介カード」完成後「Talking Time」が始まりました。

児童は、担任とALTによるデモンストレーションを見て活動内容を把握しました。教師が視覚教材やジェスチャー等も使って、「コミュニケーションの場面」を設定した上で、実際の言語活動を行なうことで、児童は容易に内容を理解することができました。

会話は徐々に児童にも向けられ、“Do you like…?” “What sport do you like?” “Do you want…?” “Do you play (the)…?” “Do you have…?”などとALTがたずねました。この様なやりとりを通じて、児童が「やってみたい!」「英語で話してみたい!」などの気持ちが出てきました。そして、児童らは相手にわかるように伝えるためにはどのように話せばいいのかを考えながら「自己紹介カード」を見て練習をしました。いよいよ「Talking Time」。この活動は以下のように行なわれました。

・内側が女子、外側が男子の二重の円を作り、音楽に合わせて歩く。

・音楽が止まったところで向かい合い、目の前にいる児童とペアを作る。

・ペアで30秒間話し続ける。その時に、「自己紹介カード」を使って、「その場で、自分に関する簡単な質問に対して答えたり、相手に関する簡単な質問をしたりする活動」を楽しむ。

I like…  I play…  I have…  I want…

Do you like…?  What sport do you like? Do you want…?  Do you play (the)…? Do you have…?

担任の渡邉亜樹教諭は、「思春期にさしかかった児童達は、男女で話すことに消極的であるため、英語の時間を利用して「男女のペア」で話すことを敢えて行ないました」とおっしゃいました。このような活動を通して、クラスの誰とでも楽しく英語でやりとりができることが大切だと思います。

また、あらかじめペアを決めないことや、30秒間という短時間にすることで、児童が「その場で質問したり、その質問に答えたりする活動」となります。これは、中学校の目標である「即興で伝え合うことができるようにする」ことにも繋がります。

本時は、「自己紹介カード」の作成を通して、文字や単語などの認識だけでなく語順の違い等の文構造にも気付きながら、必要な情報を読み取りました。さらに、実際に書く活動も行なったことから、書くことの目標についても達成できたと思いました。次の授業では、本時に得た友だちの情報を、他の友だち(第三者)に伝えるための表現について学習する予定です。

 

Category カテゴリ―