MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2019.1.11

第4回 小学校英語レポート 主体的なコミュニケーションから思考力・判断力へ

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

グローバル化の進展に対応して、日本でも国際社会で通用する英語力が求められています。2020年度の次期学習指導要領の改訂にともない、小学校では3・4年生から外国語活動が週1回(1回=45分)、5・6年生では英語教育が週2回導入される予定です。実施までの2年間は移行措置期間となります。
このコーナーでは小学校英語教育に詳しい高橋美由紀先生(愛知教育大学大学院教授)が、新しく導入される3・4年生の外国語活動と5・6年生の英語教育について、保護者の方々の不安にお答えしていきます。

 

中学年で始まった外国語活動

中学年の外国語活動では、外国語による聞くこと話すことの言語活動を通して、児童がコミュニケーションを図る楽しさを実際に体験することが大切です(文部科学省2018:24-25)。

児童が英語を使用して主体的にコミュニケーションが図れるように、『I can play the piano.』の単元で「インタビューゲーム」と「なりきりクイズ」を取り入れた活動の事例として、愛知県岡崎市立本宿小学校(福田貴子 校長)で11月に行われた4年生の外国語活動を紹介しましょう。指導者は担任の奥井利香教諭、STの荒井美穂先生、ALTのAlexの三人です。

授業は、この単元の「まとめ」として、以下のめあてで行われました。

 

1 できることについて(スポーツ・楽器)尋ねたり、話したりすることができる。

2 相手の答えを聞いて、リアクションできる。

 

はじめに、クラスを3つのグループに分けて輪になって、各指導者とグループの児童が「けん玉・お手玉・紙風船」の中から選んだものについて一人の児童に質問します。

指導者&児童達:“Can you play kendama?”

一人の児童:“Yes, I can.”と答えて実際にけん玉をします。「できた!」時には、

指導者&児童達:“Oh!Nice.” “How! Nice.” などとリアクションをします。

または、

一人の児童: “No, I can’t.” や Almost” と答えた時には、

指導者&児童達: “Let’s try!” とリアクションをします。

 

実際のコミュニケーションを想定

次に、担任が「Let’s interview well」と黒板に今日のめあてを貼りました。そして、児童が「身近で簡単な事柄に関する短い話を聞いておおよその内容が分かったりする活動」(文部科学省2018:29)として、モデルダイアローグを聞いて「聞くこと」の言語活動をしました。

 

【モデルダイアローグ】

ALT:(バット・グローブを持っている)

ST: Hello! Alex sensei! 

ALT: Oh! Hello, Miho sensei!

ST:(バットを指さして)Bat!  Can you play baseball?

ALT: Yes, I can!  I can play baseball! (バットを振る)

ST:(息子さんのサッカーのユニフォームを着てグッズを持っている)

ALT: Oh!  Miho sensei!  Can you play soccer? 

ST: No, I can’t.(ジャスチャーで「×」を表現するポーズをとる。) This is my son’s.(着ているユニホームを指して)

ALT: Oh! Your son can play soccer!  Great!

 

このスモールトークで、児童は、実際のコミュニケーションの場面で、“Can you ~?” “ Yes, I can.” “No, I can’t.” の表現を復習することができました。

次に「ソフトボールをしている」「バレーボールをしている」「ピアノを弾いている」「バスケットをしている」「水泳をしている」「『USA』の歌とダンスをしている」「コンピュータをしている」の7枚の絵カードを使ってALTがSTに尋ねました。彼女は“ Yes, I can.” の時は、絵カードをそのまま示し、“No, I can’t.” の時には、ジェスチャーで「×」を示し、絵カードを逆さに貼りました。

児童はSTを真似て、「自分のこと」について、canを使って相手に尋ねる表現と、「できる」「できない」の答え方をペアで実際に発話できるように練習しました。

さらに、バレーボールや野球をしている人物の顔を隠し、“Can you play volleyball?” “Yes, I can.” といったやりとりをしている映像を児童に見せて、Who is this?” と言って人物を誰か当てさせるクイズを行いました。映像の人物が学内の先生であったため、誰か分かった児童に、“Are you ○○sensei?“ と映像に向かって尋ねさせ、正解の場合は実際に先生方がバレーボールをしている場面等の映像を見せました。

児童が発話に自信が持てるようになった後に、「インタビューゲーム」をしました。児童は絵カードを手掛かりに友人のできること、できないことについての情報を集めました。

 

A:Hello.          B:Hello.

A:Can you play the piano?  B:No, I can’t.

A:Can you play softball?   B:Yes, I can.

A:Can you play Kendama?  B:Yes, I can.

(お互いに3つずつ尋ねる)

A:Thank you. Bye.        B:Bye.

 

自然な場面で次のステップへ

最後に「なりきりクイズゲーム」をしました。担任の先生が「Who」「?」のついた面を頭に乗せました。担任は児童の一人になりきり、その児童のできることを話し、だれか当てるクイズの出し方を示しました。児童はインタビューで情報を得た内容について、担任とやりとりをしながら、その人物が誰であるかを当てました。

この活動は、児童がこれまでに慣れ親しんできた英語を使って、必然性のあるコミュニケーションの場面で、情報や考えなどを表現したり、伝え合ったりします。それがコミュニケーションを図る素地となる資質・能力を育成することにつながります。

この授業では、児童が「自分のこと」について友だちに発話することができ、さらに、自らが情報収集したことを「思考力・判断力」を働かせて推測し、より深く友だちを知ることができるゲームへと繋げたことや、リアクションで、“Oh!” “Oh! 〇〇(友だちの名前) can play tennis!” など次のステップである三人称単数の主語「he/She」の導入も自然なコミュニケーションの場面で行われたことが良かったと思いました。

 

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