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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2018.4.5

第1回 学びのゴールが変わる

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
青山学院大学 教育人間科学部 教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

次期学習指導要領で日本の学びは大きく変わります。それは、学校の在り方そのものを問い直す根本的な変革です。教職大学院や教育現場で数多くの教師に新しい時代の学びをレクチャーしてきた益川弘如教授に、豊富な経験を基にした授業づくり・学校づくりのポイントを教えてもらいます。

ある高校教師の疑問

次期学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」(いわゆるアクティブ・ラーニング)を実現するために、これまでの授業のあり方を見直し、変えていこうということになっています。これまでの授業では何が問題で、なぜ変えていく必要があるのか? そして、どのような姿に変えていくことが望まれているのか? 事例を織り交ぜながら紹介していこうと思います。

ある高等学校で講演とワークショップをさせていただいたとき、現場の先生から次のような質問が出てきました。

「なぜ、丁寧に教師が説明するこれまでの授業を変えなければいけないのか?自分たちもこれまで教師の説明を聞く授業を受けて、こうやって高校教師になることができている。今の授業のままでいいじゃないか。」

さあ、この先生の質問、どのように思われますか? 一見、まっとうな意見に見えるのですが、大きな問題点があります。この先生が考えている「学びのゴール」の設定がそもそも間違っているのです。

これまでの学校教育では「何を知っているか」が学びのゴールとして大事にされてきました。それは、卒業までの間に知識を詰め込み、社会に出た後はその知識を使って生涯を過ごしていくという考え方でした。

そのため、学校では、「何年生のどの時期までに何を知っているべきか」という視点で知識が定義され、その知識を時間単位で分割した積み上げ型のカリキュラムが作られ、教師は、その決められた時間内に決められた内容を教える、というスタイルが一般化していました。

このような考え方の授業を「目標到達型・教授中心型」としましょう。先ほどの先生は、この枠組から考えると「主体的・対話的で深い学び」のような授業を実践すると、教えるべき内容を教える時間がなくなってしまい、非効率だと考えているのでしょう。

しかし、このような授業を行なっても、きちんと忘れないで学ぶことができる学習者とすぐに忘れてしまう学習者とに分かれてしまいます。どうしてそのようなことが起きてしまうかは次回以降に紹介するとして、ともかく「目標到達型・教授中心型」は教える側にとっては効率的であっても、学習者にとってはそうでない場合が多いという問題がありました。

 

今までのグループ活動では不十分

この問題を克服するために、小学校・中学校では「学び合い」や「教え合い」といったグループ活動を入れているところが多くあります。そこでは、教師が説明した内容を学習者が確認し合ったり、わからないところを教え合ったりすることで、決められた時間内に決められた内容を定着させています。このような考え方の授業を「目標到達型・学習者中心型」としましょう。

この視点で授業実践をされている小学校・中学校の先生方の中には「これまでもグループ活動を取り入れた授業実践をやってきている。なぜ次期学習指導要領で今さら主体的・対話的で深い学びを強調しているのか。これまでの授業方法は別に変えなくていいのではないか」という意見をお持ちの方もいらっしゃいます。

しかしこの考え方も大きな問題点があります。それはこの先生方が考えている「学びのゴール」は「目標到達型・教授中心型」と変わっておらず、子どもたちにいろいろなことを「知っている」状態にすることがゴールだという点です。

 

 「知っている」から「できるようになる」へ

これからの学校教育では、そのような「何を知っているか」から「何ができるようになるか」へ学びのゴールを変えていかなければなりません。この転換は、大きな転換です。それは、卒業までの間に将来の学びへの準備をしておくことで、社会に出た後に学んだ知識を組み換え活用したり新たに学びを広げながら知識創造をし続け、生涯にわたって成長し続けてほしいという考え方です。

学校で教えることができる知識量には限界があるため、質の高い知識を持ち、それをベースにして学び続ける力を身につけることが大事です。これは、情報が増え続けるこの知識基盤社会を生きていくためにも大事な力です。

そのため、学校には「一人ひとりの今の状態からどこまで知識を創り上げることができるか」という視点で知識が定義され、その知識を子どもたちが主体的・対話的に構成していく時間が授業時間中に保証されるような授業づくりが求められます。

このような考え方の授業を「目標創出型・学習者中心型」としましょう。このような授業では

(1)45分(50分)の授業時間を通して子どもたち同士が対話しながら検討したい「問い」をもたせること

(2)その問いの解決に向けて考えるために必要な情報や互いの考えを得て比較検討しながら深める知識構成活動があること

(3)目標とした知識を構成すると同時に、さらに知りたいことや疑問が生まれるような次の目標が創出されて授業が終わること

が大事だとされています。そのような授業を数多く経験しながら学んでいくことが、将来、学んだ成果を状況に応じて活かし、学びを広げながら新規なことが「できるようになる」ことにつながるのです。

 

次回以降は、目標創出型・学習者中心型の授業や評価を実現していくために、私の研究領域である「学習科学」の理論的背景について紹介します。また、授業づくり・学校づくり、そして教員コミュニティづくりにつなげている事例についても紹介していきたいと思います。

 

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