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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2019.11.15

第7回 21世紀型スキルのための授業づくり(1)

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

21世紀型スキルは直接教えることはできるのか

 前回のコラムで紹介した10個の21世紀型スキルですが、学校教育を通していかに育んでいけばいいのでしょうか。学習科学者たちは、これら21世紀型スキルは、直接的に「目標到達型・教授中心型」で教えてできるようになるものではないと結論付けています。従来の教科のように、10個の21世紀型スキルをそれぞれ分断して細かく教えても、学習者にとって役立つスキルとして身につないからです。それではどうすればいいのでしょうか。

 学習科学者たちは、これまで通り「国語科」や「数学科」といった教科構成で学校教育は構わない、としています。それぞれの教科には表面的な事実や情報だけにとどまらず、その教科領域の深い理解(概念や意味、つながり)が存在します。全ての教科において、21世紀型スキル様々な能力を発揮させながら、教科領域の深い学びを実現することが重要なのです。そして、そのような能力の発揮経験を積み上げていくことが、21世紀型スキルを育んでいくことになります。「主体的・対話的で深い学び」は、教科の深い学びの実現と同時に多様な資質・能力を育くむという、両輪の関係があるのです。

 

21世紀型スキルの初級状態から上級状態へ

 21世紀型スキルを育むためにも、主体的・対話的で深い学びの実現が欠かせません。しかしながら、10個の21世紀型スキルそれぞれには、とりあえず振る舞うことができる「初級状態」と、知識創造に貢献することにつながる「上級状態」とに分かれるとされています。

 上級状態の21世紀型スキルを育ためには、「目標到達型・学習者中心型」ではなく、「目標創出型・学習者中心型」の授業実践が欠かせません。いくら学習者中心型の授業を実施していても、「目標到達型のままでは、初級状態にとどまってしまいます。そこで目標創出型・学習者中心型」によって上級状態を発揮したくなるような学習環境設計が、教師に求められます。10個の21世紀型スキル、それぞれの初級状態と上級状態を紹介し、学習環境設計でのポイント考えていきましょう。今回は10個のうちの3つを紹介します。

 

創造性とイノベーション

 世の中で未知だったことを発見すること、いまだ考え出されていないモノやサービスを創り出すこと、難題を課題解決できること、これらは「創造性」を上級状態として発揮している姿でしょう。このような力を授業の中で発揮できているとは、どのような姿でしょうか。学校教育で学ぶ内容は、学問領域的な視点では既知のことです。しかし大事なのは、学習者が「既知のことを学ぶ」つもりで学ぶのか、「未知のことを学ぶ」つもりで学ぶのか、ということです。

 「目標到達型・学習者中心型」として学習環境を設計すると、学習者自身が調べたり、話し合ったりする活動が入るものの、学習者にとっては、「先生から指示された本時で扱う内容を習得する」のが授業の目標となります。また、きっと誰かが正解や事実を知っているという信念のもとで、それを「得る」ために考え、行動をするような「受け身」学習活動となります。この状態を初級状態としています。

 「目標創出型・学習者中心型」として学習環境を設計すると、学習者は自分自身が「知らない」ことを「知りたい」という思いを持って調べたり話し合ったりする活動解決したい「問い」を持ち、問いに対する答えを作り出そうとします。そのため、対話や検討を通して、理論やモデルを創り上げる活動や正解が得られないかもしれないというリスクを覚悟した探究活動となります。必然的に、アイデアやプランをたくさん出しつつ、有望なものを絞っていくような活動を行います。この状態上級状態です。本人にとって「未知」の問題を解決する経験を積むことによって、将来、世の中にとっても「未知」の問題を解決する創造性・イノベーションの発揮につながるでしょう。

 

コミュニケーション

 コミュニケーションの力を発揮している状態を考えると、コミュニケーション自体が目標ではなく、コミュニケーションを通してその内容を深めたり、高めたりすることができることが重要でしょう。

 「目標到達型・学習者中心型では、コミュニケーションそのものが目標とされがちです。相手と仲良くおしゃべりできることが重視され会話の目的は、授業で事前に決められ目標に到達することになります。このような目標の範囲では、コミュニケーションをする相手や場面も限定的になりがちです。これが初級状態です。

 「目標創出型・学習者中心型では、コミュニケーションの目的は、やりとりを通して内容を徐々に深めていくような、相互に知識を創り上げていく対話となります。対話内容を包括的に捉えたり、より上位のレベルで分析するような議論がおこなわれます。さらには、同じ内容について深めたいと考えている教室外の人など、「多様な人々」とも対話して、知識を広げていきます。そこでは、インターネットなどの情報技術も活用されるでしょう。これが上級状態です。

 

コラボレーション・チームワーク

 コラボレーション・チームワーク力を発揮する場面では、チームによって作成される成果物の質や、作成プロセスが重視されます。

 「目標到達型・学習者中心型では、小グループで活動自体が目標となってしまいます。そこで行われる(行わせる)活動は、最終成果物を作成する際に、分担作業の結果を単に組み合わせるだけになりがちですこのような成果物は、コラボレーションを通して質的に深められたものではありません。これが初級状態です。

 「目標創出型・学習者中心型では、グループ内のメンバー同士で多様なやりとりが行われます。成果物を生み出すために、対話を通して多様な知がメンバー間で共有され、新たな知を創り出すような拡張的な活動が生まれます。そのような活動を対面だけでなく、インターネットなども活用しながら、場所や時間を超えて行います。このような活動を通して、一人ひとりの理解がさらに深まると同時に、メンバーで共有される理解も発展していく、惜しみなく考えを貢献しあう文化に親しみます。これが上級状態です。

 今回は「創造性とイノベーション」「コミュニケーション」「コラボレーション・チームワーク」の3つを取り上げました。この3つの21世紀型スキルはとても重要で、密接につながっています。初級状態(目標到達型・学習者中心型)と上級状態(目標創出型・学習者中心型)では、生み出されていく知識とその過程の「質」が大きく異なることがわかるでしょう。

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