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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2020.5.15

第9回 21世紀型スキルのための授業づくり(3)

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

前回、前々回に続き今回も、21世紀型スキルを「目標創出型・学習者中心型」で育む授業実践に向けて、10個のスキルそれぞれでの初級状態と上級状態を解説します。今回は「人生とキャリア発達」「学び方の学習・メタ認知」「個人の責任と社会的責任(異文化理解と異文化適応能力を含む)」を取り上げます。

 

21世紀型スキルの初級状態から上級状態へ(3)

人生とキャリア発達

 知識創造社会の中でどのような人生を送っていくのか、また、キャリアを積んでいくのか。それを構想して実践するスキルも21世紀型スキルのひとつとして挙げられています。

目標到達型・学習者中心型」では、学習者個々人の特性にあったキャリアのゴールを目指します。自分がどんな職業に向いているのかを知るために、様々なキャリアを調べ、職業体験し、その職業につくための可能性を探ったり、必要なことを学んだりします。そのための機会を学習環境として教師が準備します。これが初級状態です。

目標創出型・学習者中心型」では、学習者自身が主体的・継続的に生涯にわたって、様々な場で、多様な学習機会に参加します。学習者自身の置かれた環境や得意・不得意によらず、常に、知識を生み続け、社会の一員として貢献するアイデンティティを持ち、必要な学習機会に触れていくのです。そのようなキャリア人生では、知識創造者として必要に応じてキャリアを変えていきます。教師が準備する学習環境も、目標到達型・学習者中心型とは明らかに異なるでしょう。これが上級状態です。

 

学び方の学習・メタ認知

 学び方の学習・メタ認知で重要な視点は、何のために学んでいるのか、考えているのか、という点です。

目標到達型・学習者中心型」の学習環境の設計では、教師が設計した枠組みの中で学ぶことが暗黙のうちに前提とされて、目標に到達してしまえば、そこで学びが終了します。このような形での学習を積み重ねると、提示された内容を達成することが大事だというメタ認知を働かせ、教師の枠組みを超えた学びに至りません。就職した後も、組織全体に関与できるとは思わず、上司や誰かが上位レベルのプロセスをコントールしていて、その指示された範囲内での活動に取り組みます。何をしなければならないか、という意思決定には参加しません。これが初期状態です。

目標創出型・学習者中心型」では、教師が授業の枠組みを作っているものの、子どもたちはその中で主体的に、対話を通して答えを見つけ出すような知識創造活動を行います。教師の枠組みを超えた問いを生み出し、授業時間内外で深めることが推奨されます。このような学習活動の積み重ねによって、常に自分は何のために学んでいるのかについてメタ認知を働かせます。就職後は、自分が持ち得る最も高いレベルで責任を持って取り組みます。必要に応じて、上司や上位レベルのプロセスにも関与し、全体を見通した検討や見直しに取り組みます。このように、自分自身がどうするかにとどまらず、社会的なレベルでメタ認知を働かせることができます。これが上級状態です。

 

個人の責任と社会的責任(異文化理解と異文化適応能力を含む)

 ここでの責任(Responsibility)とは、自身の責任感や担うべきものに対する態度に通じるスキルを示しています。

目標到達型・学習者中心型」では、個人としての責任が重視されます。授業では、自分の考えを持って出すこと自体が優先されます。相手の意見にも耳を傾けるよう指導はされますが、その後、自分の考えと比較したり関連付けたりして発展させることまでは設計されていません。そのような経験の積み上げだけでは、社会に出た場面でも、個人としての責任は持てたとしても、自分中心の狭い文脈の範囲内で判断してしまいます。これが初期状態です。

目標創出型・学習者中心型」では、チーム・メンバー、そしてコミュニティの一員としての責任が重視されます。授業では、教室内で考えを出し合って、考えを深めていく学習活動に重きが置かれます。わからないことも素直に認めながら、アイデアを出し合い、お互いのアイデアを尊重し合って、少しずつ高めていきます。そこで作られる知識は教室全員の資産となります。社会に出た場面では、他者の多様な文化背景や社会背景に理解を持ち、多文化・多言語で変化し続ける社会に貢献できるよう、アイデアを出し合い、活用し、より良くしていく形で責任をもった行動を取っていきます。これが上級状態です。

 以上、21世紀型スキルの10個のスキルについて、3回にわたって、初級状態と上級状態を紹介しました。それぞれ初級状態では、誰かから提示されたことについて自己の責任の範囲内で21世紀型スキルを発揮しているのに対し、上級状態では、社会全体がより良くなるように、多様なツールを活用して、他者との対話を通しながら、新たな知識を生み出すことに21世紀型スキルを発揮していることが分かります。このような力を、学校教育を通して育成していくことが今、求められているのです。

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