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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2022.2.11

第16回 協働的な学びの位置付けで授業はこれだけ変わる

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

令和の日本型学校教育

 前回のコラムでは「個別最適な学び」への活用が期待される一人一台端末環境も、学習アプリさえ取り組ませておけば学習効果が上がるほど単純ではないことをお伝えしました。

 20211月、中央教育審議会から「令和の日本型学校教育」の構築を目指した答申が出されています。サブタイトルは「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」です。大事だと思われる箇所を抜粋します。

学校における授業づくりに当たっては,「個別最適な学び」と「協働的な学び」の要素が組み合わさって実現されていくことが多いと考えられる。各学校においては,教科等の特質に応じ,地域・学校や児童生徒の実情を踏まえながら,授業の中で「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし,更にその成果を「個別最適な学び」に還元するなど,「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し,「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげていくことが必要である。その際,家庭や地域の協力も得ながら人的・物的な体制を整え,教育活動を展開していくことも重要である。

 個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実し、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善につなげることが必要だとしています。それでは「目標創出型・学習者中心型」として実現していくために、「一体的に充実」をいかに考えていけばいいでしょうか。

 

一人一台端末を活かすには

 国語の文学作品を読み解く単元展開を例に考えてみましょう。以下の単元展開Aと単元展開Bでは、どちらの方が「目標創出型・学習者中心型」の実現につながるでしょうか?

単元展開A:文学作品を一読した後、まず漢字・文法・表現手法について指導を受け、確実に読み取れる状態に一人一台端末を用いて個別学習する。次に段落ごとに文学作品を読み直し、一人で一人一台端末を用いてまとめを作成する。作成したものをグループで紹介しあい、その後、教室全体で教師が何人かを指名して発表させる。そして、教師が良いまとめを紹介して重要なポイントをワークシートに書かせるような流れ。

単元展開B:文学作品を一読した後、グループで解釈や考えたことなどを対話し互いに比較する活動から入っていく。その対話過程において、他者と比べて上手く読み取れなかった表現手法や文法、漢字などが出てきたら必要に応じ一人一台端末を用いるなど調べ学習する。グループ活動や全体でのやりとりを通じて自分の解釈がより明確になってきたところで、一人一台端末を活用した表現方法でまとめて相互発表し、まとめ解釈の違いについてさらに議論を深めて終わるような流れ。 

 みなさんが受けてきた授業は単元展開Aに近いのではないでしょうか。序盤で文学作品を精読するための基礎基本をまずはしっかり覚え、みんな読めるようになってから、段落ごとに読み深めていきます。個別に文学作品を読み取りまとめることが大事とされます。そして、より深いまとめが教室全体で取り上げられ、他の子供たちは「そういうまとめ方がいいんだ」と知って終わるような授業です。

 一方、単元展開Bは、文学作品をまず読んでみて、解釈や考えを相互に交換する活動から入ります。まだ深く精読していないため、解釈や考えは多様で広い状態です。やりとりの中で「あれ? そんなこと書いてあったかな?」「読み直してみたら、知らない表現や漢字があって飛ばして読んでいた」といった気づきを自分で発見し、一人一台端末で検索するなどして、読み直していきます。「必要になった時点で基礎基本の知識を身につける」かたちになっています。それらの活動を通してより自分の解釈や考えを深め、まとめを相互に交換します。他者の解釈との違いを楽しみながら終わっていくような授業です。

 両者を比べてみると、単元展開Bの方が、私たちが普段文学作品に触れるプロセスに近いと思いませんか? こちらが子供たちが自ら深めていくような学習を支援している「目標創出型」と言えます。そして、単元展開Aは細かいステップに分かれていて、教師が定めた目標に向けて順番に学習していく「目標到達型」に留まっています。

 一人一台端末により子供たちが必要な情報にアクセスできる環境が充実したことで、単元展開Bのような、まさに「令和の日本型学校教育」が実現可能になりました。

 

個別最適な学びと協働的な学びをどう一体化すればいいのか

 次に「目標創出型・学習者中心型」を実現するための個別最適な学びと協働的な学びの関係を考えてみます。「令和の日本型学校教育」の答申では、個別最適な学びと協働的な学びを以下のように整理しています。個別最適な学びはさらに2つに分けて整理しています。

<個別最適な学び(=個に応じた指導)>
指導の個別化:一定の目標を全ての子供が達成することを目指し、異なる方法等で学習を進める
学習の個性化:異なる目標に向けて、学習を深め、広げる

<協働的な学び>
異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出す。

 個別最適な学びは、これまで個に応じた指導と呼ばれていたもので、共通の到達目標に向けた学習を指す「指導の個別化」と、一人一人の興味・関心やキャリア形成(実現したいこと)に応じて学習を発展させる「学習の個性化」に整理されています。協働的な学びは、一人一人のよい点や可能性を活かし、子供同士や地域の方々など多様な他者と協働しながら学びを進めるイメージです。

 単元展開Aは、まず一人で表現方法や漢字を学習する「指導の個別化」が行われ、それがしっかりしてから「学習の個性化」に基づいた一人一人の解釈をまとめ、最後に「協働的な学び」として、異なる考え方を交換させています。この場合、子供たち個々の能力に依存した授業展開となるため、最初に「指導の個別化」で全員が到達していないと「学習の個性化」での活動も差が開いてしまいます。多くの実践ではここに時間がかかりすぎてしまい、最後の「異なる考え方を組み合わせる」ような対話時間までは確保できなかったり、教師が模範解答だと考える子供のまとめを紹介して、子供たちの解釈や考えに上書きさせようとしたりします。これでは「協働的な学び」が上手く機能しません。

 単元展開Bは、「協働的な学び」から入り、異なる考え方を組み合わせます。その中で各自が必要だと感じた知識を、自ら必要感を持って入手する「指導の個別化(主体的な個別学習)」が行われます。同時に、異なる考え方との組み合わせでより質の高い解釈を自分のものとした上でのまとめ活動が実現されています(「学習の個性化」)。

 「令和の日本型学校教育」のまとめでは、個別最適な学びと協働的な学びの一体化をどう実現すればいいかまでは言及されていません。「目標到達型・学習者中心型」で留まるのではなく、「目標創出型・学習者中心型」の授業を実現するためには、

個別最適な学びから協働的な学びへ:個人の能力を高めて、はじめて協働が実現する

ではなく、

協働的な学びから個別最適な学びへ:協働で互いの考えを出し合って組み合わせていくと、個人の能力が高められる

という視点で授業づくりや子供たちの学びを考えていく視点が大事になるでしょう。

 

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