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2022.5.13

第17回 協働的な学びは問題解決能力を引き出す

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

協働的な学びをテストの問題解決場面に取り入れると

 前回のコラムでは、「目標到達型・学習者中心型」で留まるのではなく、「目標創出型・学習者中心型」とした授業を実現していくためには、個人でしっかりできて、はじめて協働が実現する「個別最適な学びから協働的な学びへ」ではなく、協働で互いの考えを出し合って組み合わせていくと、個人がしっかりしてくる「協働的な学びから個別最適な学びへ」という視点で授業づくりや子供たちの学びを考えていくことが大事になるとお伝えしました。第15回では、算数・数学の「比・割合」の領域を対象として、算数の意味理解と個別最適な学びであるAIドリルとの関係から課題点を指摘しました。今回は同じ「比・割合」の領域を対象として、研究チームで取り組んだ「協働的な学び」がいかに学びを引き出すのかについて紹介していきます。

 

全国学力・学習状況調査問題の結果から見える課題

 図1に示している問題は、平成26年度の算数Bの出題問題です。(2)は示された情報を解釈し、基準量の1.5倍の長さを表している図を選択することができるかみるもので(正答4)(3)は示された情報を整理し、筋道を立てて考え、少数倍の長さの求め方を言葉や式を用いて記述できるかどうかをみるものでした。

図1 H26 全国学力・学習状況調査 算数B問題より

 国立教育政策研究所の分析報告書(2014)によると、(2)の正答率は46.3%で、一あたに1.5cmを足した長さの「3」を選択した割合が28.4%、一あたの2/3倍の長さの「1」を選択した割合が12.9%でした。また(3)の正答率は32.8%で、一あたの長さのみ説明していた割合が28.8%もいました。この問題も、第15回のコラムで紹介した問題例と同じように、問題文の意味を十分に読み込まないまま、何らかの思い込みで選んだり、立式に取り組んだりしている可能性があります。

 こちらの問題を解くときに起きてほしい学習活動は、比べるとはどういうことなのか、何が基準となって(基準量)、何が比較され(比較量)、割合は何を示しているのかの意味理解を作り上げることです。この思考プロセスが解答時に求められています。

 

全国学力・学習状況調査を2人で解くと?

 研究チームの調査では、複数の小学校・中学校にご協力をいただき、全国学力・学習状況調査問題を一人で解いたあとに二人(または三人)で話し合いながら解いてもらうという協働的な学びの学習活動に取り組んでもらいました。そして、その様子をビデオ撮影し、詳細を分析しました(遠山・白水(2018)「協調的問題解決能力をいかに評価するか-協調問題解決過程の対話データを用いた横断分析-」, 認知科学, Vol.24(4), pp494-517.)。

 複数の問題を分析したのですが、今回は、さきほどの問題(以下「あた問題」と呼びます)の事例を紹介します。公立小学校5校、6年生37名(17ペア・1トリオ)での調査の結果、一人で解いた後に二人で解いてもらうことで、(2)の問題は正答率が62%から78%へ、(3)の問題は正答率が45%から66%へ向上したのです。

 二人で解くときには、二人とも正解、片方のみ正解、二人とも誤答、と様々な組み合わせがありましたが、二人とも最初は誤答だったのに、二人で取り組むと正答に変わったというペアもいくつも出てきました。いったいどのような対話がされていたのでしょうか。対話の様子を分析した事例を一つ紹介しましょう。

Aさん:私、これ選択肢3にしたんだよ。だってさ、1.5で、ここ1.5って書いてあるからさ自分の左手の一あたに右手の人差し指をくっつける
Bさん1個半ってことじゃないの?
Aさん:え、そうなの? だって1.5でしょ?
Bさん:これが1だから、これをもう1付けて、半分にする、だからこれ選択肢1)……。
Aさん:え、でも、待って、待って。(中略)2個目があるじゃん、それにこうやって、こうなって自分の左手の一あたに右手の一あたをくっつける、でも、この2個目の全部を言ってるわけじゃなくて、この半分の長さを言ってるわけだから。
Bさん1.5って、1個と半分か?
Aさん:つまり、1.5ってことは、10.5足した数だから、ね。
Bさん:じゃ、これ?選択肢4)
Aさん:これだ、たぶん。そう信じよう。

 一人で解いたときは、Aさんは(3)を選択、Bさんは(1)を選択し、どちらも誤答でした。そして話し合いで使っている「ことば」をよくよく見てみると、問題解決の視点がそれぞれ異なっていることがわかります。Aさんは「1.5倍」という表現を使って「倍数」の視点で話していますが、Bさんは「1個半」という表現で「個数」の視点で話しています。しばらく異なる視点で対話を続けていたのですが、そこでは、自身の手で一あたをつくりジェスチャーで伝え合いました。そして、対話を通して「倍数」と「個数」の表現をつなげ、そして再び自分の表現に戻っていきながら、文章題の「意味理解」が進み、どちらの表現であっても共通する答えを見出しました。このように、他の人の捉え方と自分の捉え方を比べる対話を通して、自分自身の考えを見直すことにつながっていたのです。

 他の問題の対話場面の分析においても、誤答から正答に変化したペアの発話では、「どのように解いたか」のそれぞれの解き方を共有し比べていました。さらには、単なる正誤の確認にとどまらず、問題の文脈に合わせた「もしもこうだったら」といった、考えを広げて新たな問いを見出していくような話し合いも起きていました。

 今回は、協働的な学びによって正答を生み出せた例を紹介しましたが、二人でも解答が変わらず、誤答のまま終わってしまったペアもありました。次回は、正答を生み出せた例と誤答のまま終わってしまったペアを比べながら、個別最適な学びにつながる協働的な学びの要件について考えていきます。

 

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