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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2022.8.12

第18回 個別最適な問題解決能力を育む協働的な学び

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

協働的な学びと各学校の指導方針

 前回は、算数問題を一人で解いたあとに二人で話し合いながら解く協働的な学びによって、誤答から正答へ変容した例を紹介しました。全体的には、一人で解くよりも二人で話し合うことによって、正答率が向上することが明らかになりました。しかし、解答を変えず誤答のまま終わってしまった場合もありました。複数の学校で調査しましたが、学校別に傾向を見てみると、話し合いの進め方のパタンが、各学校の研修・指導方針と関連していて、授業でいかなる学習活動の経験を積み重ねたかによって変わってくる可能性が見えてきました。今回は、学校での指導方針も含めて、協働的な学びを育むための授業づくりについて考えていきます。

 

対話が生まれる話し合いとそうではない話し合い

 誤答から正答へと考えが変わったペアは、前回でも紹介したように「どのように解いたか」互いの解き方を共有し比べていました。また、単なる正誤の確認にとどまらず、問題の文脈に合わせて「もしもこうだったら……」といった、考えを広げて新たな問を見出ような話し合いも起きていました。自分の考えと相手の考えを比べ、自分の考えを見直す機会となり、新たな問題解決につながりました。

 一方、解答を変えず誤答のまま終わったペアは、「どのように解いたのか」の解き方は共有することなく、「答えは何を選んだのか」の共有にとどまっていました。さらには、片方が説明するときに相手は頷きながら「傾聴」するものの、自分の解答と異なっていても「なぜ違うのか」についての対話は起きず、ただ相手の話を聞いていたのです。互いに一人で解いた時の答えを言い合っただけで終わっていました。

 

学校の授業における話し合い活動の取り組みの違い

 多くのペアは、大きく前者のタイプと後者のタイプに分けることができました。そして、前者のタイプが多い学校と、後者のタイプが多い学校とに分かれることも見えてきました。そこで、各学校の研修方針(指導方針)を調べると、話し合い活動の指導の仕方に大きな違いが見られたのです。

 前者の学校では、話し合い活動を通して子供たち自身で納得できる答えを創っていくことを重視し、時折、知識構成型ジグソー法(第4回、第5回を参照)も取り入れながら、互いの異なる考え方を組み合わせるとより良い考えが生まれる経験を積ませていました。

 対して、後者の学校では、話し合い活動を活性化させるために、話型指導を軸として、相手に考えを伝える方法、聞く方法を教え、その方法を話し合い活動で使わせることを重視していました。話型とは、例えば「はじめに~、つぎに~、さいごに~です。」と順序立てて話す方法や、「私は○○と考えました。なぜならば△△だからです。」と考えた結果と理由、自分の意見と根拠をきちんと分けて話す方法です。また、「相手の話を最後までしっかり聞くように」「意見が同じだった場合は『同じです』、分かった場合は『わかりました』と反応するように」と、聞き方も指導します

 これらの指導方針の違いの結果、前者の学校の子供たちは、互いにどのように考えているのかを出し合って比べながら、一緒に答えを作り上げる割合が高く、相手が説明している途中でも話を制止して疑問に思ったことや考えていることをぶつけ合い、わからないことも素直に表出しながら深めていました。まさに「目標創出型・学習者中心型」の授業で理想とされる対話活動です。

 そして後者の学校の子供たちは、自分は何の答えを選んだのか、そしてその理由をていねいに説明するのですが、話し終わるまで、相手は傾聴するものの、それ以上、考えの違いを比べるような話し合いは起きず、順番に伝えただけで終わる割合が高かったのです。また、話し合い活動の前に自分の考えを上手くまとめることができなかった子供は、話し合い活動で説明することができない、という状況になります。こちらは「目標到達型・学習者中心型」の授業で起きがちな対話活動でした。

 

話し合いの表面的な様子ではなく頭の中の思考過程を重視

 実は、前者の学校でも、対象となった子供たちが3年生までは、話型指導を中心とした「目標到達型・学習者中心型」の授業が中心でした。授業研究の一環で、第17回で紹介したAさん、Bさんのグループでの話し合いの様子が記録に残っていたので、分析したところ、Aさんは司会役となって、グループのメンバーは指名された順に「私は○○だと思います。なぜならば△△だからです」と伝えて終わっていました。その後、4年生以降、学校の研修テーマが変わり、「目標創出型・学習者中心型」の授業への転換が始まりました。

 そこでの工夫は、子供たちが「考えたいな」「話し合いたいな」と思わせる学習内容の「問い」と「教材」の検討です。その結果、AさんとBさんの対話内容が徐々に変わっていきました。場を回すようなコーディネートの発言割合が減り、疑問を出し合いながら、学習内容を深めていく発言割合が増えた結果、対話を通して深い学びが実現するかたちに変化したのです1

 先生方の子供たちの見取りもかわりました。当初は、「子供たちがきちんと話を伝えているか、聞いているか」「黙り込まずに発言しつづけているか」といった「表面的な様子(行動レベル)」でしたが、「わからないことを素直に出して、そのことについて話し合っているか」「だまっていても考えているのであれば様子を見よう」といった子供たちの「頭の中の思考過程(思考レベル)」を重視するようになったのです。その結果、子供たちも「友達と話し合うことで、自分自身深く考えるようになり、結果、教科内容がもっとよく理解できるようになった」という自分の学習に対する「対話の意義」を感じることにつながり、経験の積み重ねによって一人一人が個別最適に学びを深めるための、協働的問題解決能力が育まれたのではないでしょうか。

 協働的な学びの実現のため、把握しやすい「表面的な様子」にとらわれてしまい「対話の型」を指導しがちですが、それでは「目標到達型・学習者中心型」からの脱却が困難です。協働的な学びを個別最適な学びにつなげるために、子供たちが何を考えて深めているのか? という「頭の中の思考過程」重視しつつ、対話を通して問いに対する答えを創り上げる「目標創出型・学習者中心型」の取り組みが求められます。長い目で子供たちの対話の力の成長を見守ることが重要でしょう。

 

1 益川・河崎・白水(2017)「建設的相互作用経験の蓄積が協調的問題解決能力の育成につながるか―縦断的な発話データを用いた能力発揮場面の分析」, 認知科学, Vol.23(3), pp.237-254.

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