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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2022.11.11

第19回 協調的な問題解決能力を伸ばす学習環境

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

前回のコラムで登場したAさんとBさんは、その後どうなったと思いますか? 今回のコラムでは、AさんとBさんが中学1年生の11月のときに、私たち研究チームが中学校に訪問、授業参観やインタビューを行った様子を紹介します1。小学校で積み上げられてきた協調的な問題解決能力がどのように成長していくのか、そして、一人ひとりなりに協調的な問題解決能力を高めていくための学習環境の重要性について、改めて解説したいと思います。

 

小学校時代:授業が変わったことによる子供たちの成長

 前回のコラムで紹介した通り、AさんとBさんが小学校3年生のときには、学校の研修方針で話し合い方や発表の仕方といった「話型」を指導され、それを基に班で話し合うことが推奨される「目標到達型・学習者中心型」の授業が中心でした。しかし、小学校4年生以降は、学校の研修テーマが変わり、「目標創出型・学習者中心型」の授業への転換が進み、AさんとBさんの対話の質が高まっていきました。

 小学校3年生のときの、Aさんのグループでの話し合いの様子を紹介します。

Aさん:じゃあ、Eさん。
Eさん:はい、豆太は勇気のある子だと思います。理由は(中略)勇気のある子です。
Aさん:はやっ、早口ですよね。
Eさん:ごめん。
Aさん:じゃあ、Fさん。
Fさん:豆太は勇気のある子だと思います、理由は1人で夜道を走っていけるからです。

 積極的に司会役を引き受けながら、場を回す「コーディネート」に熱心です。他の子たちは、「話型指導」に従って、考えた結果と理由を順番に話していました。

 このときBさんは、EさんやFさんのように、話型指導に従って、

Bさん:臆病だけど優しい子だと思います。理由は夜に一人で(中略)呼んだからです。
Bさん:ねっ、疑問ある?

と、教師が「話を聞いたら、相手に疑問を聞いてね」と指示していたので、「指示にしたがって発言」したのですが、疑問は出ずに終わってしまいました。このように、場を回すことに専念していて、学習内容について深めるような対話が起きているとは言えませんでした。

 それでは、4年生、5年生と「目標創出型・学習者中心型」の授業経験を積み上げた上での、小学校6年生のAさんとBさんの話し合いの様子を紹介します。

Iさん:足せばいいんじゃない?
Aさん:足すの?
Bさん:これを全部?
Aさん:これを全部?
Bさん:足すか?
Jさん:足したらさあ、なんかさん、全部の面積だからさあ。
Bさん:31
Aさん:違うくない? なんか。
Bさん:31は変。
Jさん:全部の面積じゃないみたいな。(問題文の)3人で。
Bさん:全部の面積書く必要なくないか?(問題文の)3人で分担しろってことでしょ?
Jさん:うん。
Bさん:誰かのを基準にしてそれを割ればいいんじゃない?
Iさん:全部の面積が分かればできるよ。
Aさん:(問題文の)誰かのを基準にするか。

 発話のターンは短く、メンバーの誰かが話す順番をコントロールすることもなく、課題内容について言いたい意見を言いながら深めている様子が伺えます。どう考えたらいいのか仮定の内容も積極的に提案されていますAさんBさんは、対話を通して深い学びにつなげることができるようになっていました。

 

中学1年生の秋:子供たちはどうなった?

 AさんBさんの中学校は、隣接する3つの小学校の出身者が通う学校でした。訪問当日は、クラスの授業を参観し、その後、同じ小学校出身の2人を加えた4人にインタビューをしました。最初に一人ずつ中学校での様子を聞、その後4人全員で座談形式で行いました。

 一人ずつインタビューで、Aさんは中学校については「知らないことを知れるがつまらない授業。国語の文法は覚えづらい。ねむいし苦手。社会好き、覚えるのは苦手だけど点が取れる。覚えやすい。」と答え、小学校のころについては「今はそうじゃないんですけど、先生が話をしているときに疑問に思ったことをズバズバ言っていたと思う。どの先生にも言っていた。」と答えました。

 Bさんは中学校については「班活動は中学になってあまりないです。説明を聞いていてちょっとスピードが早かったりして説明聞いても難しい」などと答え、小学校のころは「班活動とか多かったので眠くならなかった。班活動は好きだったです。楽しかった。色んな人とかと活動できるので意見が色々出たりして。」と答えました。

 中学校では、「目標到達型・教授中心型」の授業が多いようです。当日参観した授業では、訪問者向けに工夫をしたのか、グループ活動が導入されていたものの「目標到達型・学習者中心型」にとどまっていました。

 Aさんのクラスではジグソー学習を意識した授業が行われました。Aさんは授業後、「今日配った資料のうち、4つめの資料は、いらないと思ったんだよね。正直。班活動に戻ったら、使わなさそうな感じだった。」と答え、授業で扱う学習内容に対しての課題点を指摘しました。

 Bさんのクラスでは、教師は「まずはせっかく今、紙を配ったので,その中に点を取って下さい。わかりました? じゃあちょっと最初なので班でくっついて,周りで確認しながらやってみましょう。点を取ったら周りで確認して」と作業結果の確認のために班活動を指示しましたBさんは「この班活動意味ないじゃん」と呟き、疑問を解決するためではない活動に不満を抱きつつも、指示された活動に取り組みました。

 これらより、授業が「目標到達型・教授中心型」「目標到達型・学習者中心型」になってしまった中学校で、小学校時代の「目標創出型・学習者中心」との違いを認識して、Aさん・Bさんなりに、その学習環境に順応しようという姿が見られます。

 

対話が学びを深めることを実感している仲間の存在

 最後に、AさんとBさんと同じ出身校の生徒4人が集まってのインタビューの一部を紹介します。

質問者:今の中学校は、班活動に入ったらどう?
Kさん:他の出身校のメンバー次第。
Aさん:(話し合い)うまくできない。無理無理無理。
Lさん:誰もしゃべらないんだったら、もう一人でずっと考えている。
Aさん:同じ出身小学校の子が一人でもいれば、なんとかいける。
Bさん:今の班なら同じ出身小学校の子がいるから平気。
Lさん:班のメンバーで、出身小学校の子が自分以外にもうひとりいれば。
Bさん:全然いける。

 興味深いのは、出身小学校の子がメンバーに一人でもいれば、対話活動を通して深い学びにつなげることができると発言していたことです。

 今回の調査より、小学校での「目標創出型・学習者中心」の経験の積み重ねによって、深い学びにつながる学習環境の姿をイメージできるようになるとともに、対話を通じて学びを深めた経験のある仲間の必要性も感じていました。小・中・高問わず、一貫して「目標創出型・学習者中心」の授業を経験することで、卒業後も仲間と共に協調的な問題解決に取り組み続ける力につながるのではないでしょうか。

 

1 益川弘如・遠藤育男(2018)「協調的問題解決能力の良質な発現チャンスが埋め込まれた学習環境は能力の育成にいかにつながるのか:発話データからの検討」, 人工知能学会全国大会論文集

 

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