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2023.9.1

第22回 入試問題を生徒たちはどのように解いているのか?

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
青山学院大学 教育人間科学部 教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

テストを受けている最中に、子どもたちは何を考えながら、どのように問題を解いているのでしょうか。今回は、国語現代文の大学入試問題(過去実施された大学入試センター試験)を題材に、前回に続いて学習評価について考えていきたいと思います。今回紹介する研究は、益川他(2018)※1として論文化した研究チームによる取り組みとなります。この研究では、高校生に解いている最中や直後に何を考えているかを話してもらう「思考発話法」を用いて、生徒たちの思考過程に迫ってみました。

研究方法

 実験は、関東圏内の県立高等学校の高校生を対象に、2015年に実施しました。当時はセンター試験が行われていましたが、センター試験の受験率の高い高校から低い高校まで3校を選定し、各校6人ずつ計18人に協力してもらいました今回はそのうちの10人が取り組んだ小説問題(平成27年度、小池昌代『石を愛でる人』)を紹介します。

 今回紹介するのは問2~5についての分析です。みなさん以下の設問から、出題者どのような読解力を測定しようとしているのか想像できるでしょうか?

問2 傍線部A「言葉を持たない石のような冷やかさが、その冷たいあたたかさが、とりわけ身にしみる」とあるが、それはどういうことか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤から選べ。

問3 わたしの山形さんへの見方は、この文章全体を通してみると変わっていくが、29行目から57行目までに描かれた山形さんの人物像はどのようなものか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤から選べ。

問4 傍線部B「当日は雨だった。しかし石を見に行くのにはいい日のように思われた。」とあるが、それはなぜか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤から選べ。

問5 傍線部C「何かが何かを少しずつひっぱっている、その日は、そんな感じの日であった 」とあるが、わたしはどのようなことを感じはじめているのか。わたしの中で起こった変化を踏まえた説明として最も適当なものを、次の①~⑤から選べ。

 こうやって設問を並べて見ると、本文で鍵となるであろう「石」が何度も登場します。そして「わたし」と「山形さん」という登場人物がいることもわかるでしょう。これらから、出題者は、『石を愛でる人』の本文全体を通して、「わたし」と「山形さん」の関係を「石」や「言葉」を巡って変わっていくことを読み取ってほしいことが分かります。

生徒は問題文をどのように読んでいるか

 10人がどのように問題文を読んでいるかを行動から分析したところ、出題者が望むよう本文全体を通して読んでから設問に取り組んだ生徒は1人もいませんでした。問題文の一部を読んでから設問を読む生徒が3人、設問を読んでから問題文の一部を読んだのが7人でした。ほとんどの生徒は、設問で提示された傍線部近辺の文章を読んで、解答を検討していました。しかも、その方法と正答率との間に特に関係なく、同じ解き方で高得点が取れた生徒とそうでない生徒とに分かれました。以下は、ある生徒の思考発話です

文章問題というか、文章本編の方はあんまり見ないです。そのまま問題を見て。で、そっから本編の方を見る、基本的には。でも、授業でやっていることなんで。

 実際に、問題文の内容と選択肢の内容とをどのように関連づけて解答を選んでいたかを分析しました。すると、多くの生徒が、問題文の傍線部前後に登場する言葉と、各選択肢の言葉が一致しないものを順番に消去して解答を絞り込むような「消去法」を中心に解いていました。例えば以下のような発言です。

何か(各選択肢の)最後のところが、『強引な人』とか『無神経な人物』とか、全部違うので、そこをちょっと見直した。何かここら辺(選択肢の冒頭部分)は同じことを言っているから(そこは見直さなくていい)。だから、違う真ん中ら辺とか、最後のところを見て。何か癖で、ちょっと違うなって。こうやってバツつけちゃうと、絶対(後からバツをつけた選択肢)は目を通さないんですよ。

全問正答した生徒の解き方は

 全問正答していた生徒一人の思考過程がどうだったのか、出題者側の意図を基準にして比較しました。

 最初の問2は、わたしと石の関係を問設問でした。それに対し、問題文の「石の中へわたしは入れず、石もわたしに、侵入してこない。」という一文から、該当する解答を選択していました。ここでは、わたしと石の関係について出題者の意図通りに読み取っていました。

 問3は、わたしと山形さんの関係が29行目から57行目までの間でどうだったかが問われました。生徒は「何か全部違うような気がしてしまって」と発言しつつ、選択肢はイメージが「明るすぎる」消去し、残りの選択肢で悩み「勘です」と言って正答を選びました。

 問4は、これまでのわたしと山形さんと石の関係の変化を表す表現について問うものでした。しかし生徒は「選択肢番の序盤に、私は実も石が好きだみたいなことが書いてあって、濡れた石に魅力を感じるみたいなことが(本文に)書いてあったから、まずこれかなと思って」と発言しました。関係の変化については一切言及がなく、単に問題文と対応づく内容が書いてあったから、ということで正答できていました。

 そして問5は、終盤におけるわたしと山形さんと石の関係の変化について問うものでしたが、ここでも生徒の解答の選択根拠は、問題文の表現と合っているかどうかで、わたしと山形さんと石の関係の変化に関する説明はありませんでした。

測定したい解答プロセスと異なる解き方

 本来、生徒の問題文の深い読みに基づく解答を測定したいのであれば、期待する解答プロセスは(1)まず問題文全体を十分読み込み、(2)その過程で各段落の要旨を理解しつつ、(3)それら段落間をつなぎ合わせて問題文全体を理解した上で、(4)問題文の内容理解に沿って各設問の選択肢から該当する解答を選択する、という流れで思考してほしいところです。しかし、今回の結果からは、多くの生徒が、(1)問題文全体を十分に読み込まないまま、(2)設問の選択肢を比較し、(3)傍線部前後の問題文で登場しない表現の選択肢を消去法で削除し、(4)残った選択肢から問題文に登場している表現と似ているそれらしいものを選択する、という流れで思考していました。

 テスト問題は短時間で解く必要があるため「効率」を考えるとそのような解き方になってしまうかもしれません。しかし、そのような読み方は本当に小説を読む力なのでしょうか。また、多肢選択肢式でなければ、読み方は変わってくるのでしょうか。次回も引き続き、この問題について考えていきたいと思います。

※1 益川弘如・白水始・根本紘志・一柳智紀・北澤武・河﨑美保(2018)「思考発話法を用いた多肢選択式問題の解決プロセスの解明:-大学入試センター試験問題の国語既出問題を活用して-」, 日本テスト学会誌, Vol.14, No.1, 51-70.

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