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2024.8.9

第26回「NEXT GIGA」で考える相互に思考を共有する学び

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
青山学院大学 教育人間科学部 教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

前回に続き、一人一台情報端末の第2世代への更新「NEXT GIGA」と合わせて「目標創出型・学習者中心型」の実践が広がっていくためのICT活用について考えていきます。今回は、クラウドを活用した、相互の思考の共有についてです。

 

他者の考えや思考途中の考えの共有

 一人一台情報端末が活用できるようになったことで、紙のノートでは実現が難しかったことが可能になりました。その一つが、書き出した考え(思考の外化物)がクラウドを経由し、相互に参照し合えるようになったことです。協働学習アプリなどの普及によって、この活動がより容易にできるようになりました。

 主体的・対話的で深い学びにおいて重要な思考プロセスの一つとして、「自分の考えと他者の考えを比べて深める」活動が挙げられます。人は、一人で物事を考えたり理解しようとしたりする範囲では、「わかったつもり」になるとそれ以上深めようとはしません。本人にとっては「わかった」状態になっているので、その理解が浅かったり間違ったりしていても、本人は気づかないのです。そこで大事になってくるのは、他者の考えと自分の考えを比べて、その違いから自分の考えを見直し、深めていく活動です。

 最近のクラウドサービスを活用することによって、例えば各自がデジタルホワイトボードにまとめた内容を、相互に参照し合うことによって、自分の考えと比較することが可能になります。また、いつでも参照し合うことができるので、他者の思考途中の考えも知ることができます。このような他者参照、途中参照と呼ばれる活動は一見良さそうに見えるのですが、気をつけなければならないことがあります。児童生徒任せの活用に留まってしまうと、前回指摘したような「目標到達型・学習者中心型」「目標未到達型・学習者中心型」になってしまうのです。

 

他者参照・中途参照を超えて

 例えば、子どもたちの主体性にまかせて「◯◯についてまとめよう」という問いを設定し活動させたとします。そして、「わからなかったら他者参照や途中参照をしてもいいよ」と指示を出したとします。そのことによって、たしかに子どもたちは主体的にまとめる活動の途中、他者のまとめも参照することで、自分のまとめと比べ、さらによいまとめを作成するにすることにつながるでしょう。しかし、「子ども任せ」の活動は、必ずしも考えを深め、根拠や理由を追求したり、さらなる疑問を創出するような「目標創出型・学習者中心型」の活動になるとは限りません。授業を参観すると、「目標創出型・学習者中心型」となっている子どもたちと、単に教科書や資料集の内容、わからないからといって他者参照した内容をそのまま書き写すだけの「目標到達型・学習者中心型」「目標未到達型・学習者中心型」の子どもたちとで二分されてしまうこともよくあります。

 それでは、「目標創出型・学習者中心型」となるような他者参照・中途参照を実現するためにどのような点に気をつければいいでしょうか。一つは「なぜ◯◯なのか自分の考えをまとめよう」など、「問い」を工夫することで、他者参照・中途参照が、自分の考えを深めるための活動だと明確化することです。他にも「どのような違いがあるだろうか?」と参照活動意図的に組み込、他者の考えと自分の考えを比べ、その事自体をまとめたり対話させたりするような活動があるでしょう。

 

参照元と参照先との関係を外化共有する相互リンク機能

ノート共有吟味支援システムReCoNote(Reflective Collaboration Note)

 の学生時代はインターネット創生期、ReCoNote(Reflective Collaboration Note)と名付けた、ノート共有吟味支援システムを開発し、大学授業で実証的に検証を行いました(※1)。このシステムでは、自分のノートに加え、他者のノート、グループのノートや授業で扱った資料等を自由に参照することができ、他者参照・途中参照を実現していました。ただ、単に他者参照や途中参照ができるだけでは、情報のコピーに留まってしまい、深い学びを支えることにはつながりません。そこで、他者のノートやグループのノート、授業資料を参照したときに、それら内容が関連するなと思ったときに「相互リンク」を作成し、結びつけることができるようにしました。さらにはその相互リンクにいかなる関連があるのかコメントを入力し記録できる仕組みにすることで、いかなる関連があるのかの思考を外化できるようにしました。そして、この作成された相互リンク自体も、相互参照できるようにして、他者がどのようなことを考えて相互参照したのかの情報も共有できるようにしました。

 この相互リンクの共有という考え方を現在の「主体的・対話的で深い学び」の学習活動に置き換えると、他者参照や途中参照の活動を通して「いかなる比較をしたのか」「どのような違いがあって自分の考えはどう変えたのか」という情報を、子どもたち同士が対話などを通して共有していく活動になりますその活動の中で教師は、クラウド活用の功罪を踏まえて、子どもたちが単なる情報のコピーではなく、相互参照によって思考を深めているかどうか見取りながら、「目標創出型・学習者中心型」授業の実現を進めていくことが大事になるでしょう。

 

※1 益川弘如 (1999), 協調学習支援ノートシステム「ReCoNote」が持つ相互リンク機能の効果, 日本教育工学会論文誌,23(2), 89-98.

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