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ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2019.8.23

第4回 ロボットづくりが伸ばすコミュニケーションスキル

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

 

コミュニケーション力は21世紀に必須の能力

先が見えない時代と言われている中で、企業は優秀な人材を求めている。経団連の「新卒採用に関するアンケート調査結果(2018)」によると、選考時に重要視するスキルは次のとおりである。

1位 コミュニケーション能力 82.4%

2位 主体性 64.3%

3位 チャレンジ精神 48.9%

企業が新入社員に最も求める力がコミュニケーション力であり、16年連続の1位である。また、新卒採用で学生にどのような能力を求めているのかは、企業が感じている若手社員の課題の裏返しでもある。

それゆえに、今までの暗記中心の教育からの変革が求められている。文科省が打ち出した次期学習指導要領のキーワードは「主体的・対話的で深い学び」である。学習内容の習得だけでなく、「どのように」学んだのか、学習者の姿勢・態度にまで言及している。

これまで取り組んできたロボット・プログラミング教育を振り返って、期待される教育的効果を考えた時、プログラミング的思考に代表される論理的思考力の育成が浮かび上がる。そして、前回までその思考力への効果については、説いてきた。

それに加えて、ロボット・プログラミング教育を通して、コミュニケーション力や協働性などの人間関係力の向上を身をもって感じてきた。今回は、人間関係力への寄与について考えたい。

 

「1+1」は100にもなり1にもなる

中学校では、発達段階に応じたロボットの授業を各学年9回行っている。その際、必ず生徒は2人組でチームを組み、課題に挑戦をさせている。2人組のチームにし、課題に取り組む授業の教育効果は次の2つである。

1  課題解決のためのロボット開発の過程で、協働性、コミュニケーション力を育む。

ロボット授業の課題は明白であるが、答えが何通りもあるので、お互いの意見をぶつけなければならない。つまり、しゃべらざるをえないのである。こちらが指示をしなくても、「どうする?」「こうしよう」という言葉が飛び交う。授業後に「どのような力がついたか」というアンケートを行うが、「創造力」「思考力」については90%以上の生徒が評価すると同時に、「コミュニケーション力」についても80%以上の高い評価を毎回得ている。

2 ロボット開発の成果から、協働の重要性に気づき、今後の学習活動に活かす。

ロボットの授業を終えた生徒たちに「1+1=2ではなく、1 +1=10にも100にもなることがある。一方で1+1=1なんてもこともあるかも」というと、多くの生徒がうなずく。つまり、協働的に課題に取り組むことができたら、想像以上の力が発揮できることを実感できるのである。一方で、うまく協働的な活動ができなかったチームも、他の班の様子や成果を目の当たりにすることによってその重要性に気づく。将来、生徒たちが社会で目の当たりにする課題には、一人で解決できるものはほとんどない。そのことにも気づいてほしいと願っている。

ロボットを通じた学び合い教え合い

 

ロボットの授業は、生徒が先生!

ロボットの授業を一人で教えるのは難しい。そこで、各クラス4名程度のリーダーの生徒を決め、その生徒たちが授業を進めるようにしている。つまり、教師が教えるのではなく、生徒が生徒を教える形態をとっている。リーダーの生徒には、授業後、残ってもらい、次回の学習の予習をし、役割分担を決める。授業当日の朝に集まり、再度、授業進行を確認し、授業に臨むというやり方である。このような授業形態をとることによって、次のような効果が生まれると考える。

1  生徒どうしの「教え合い」「学び合い」を通して、主体的に学ぼうという態度を養うことができる。

2  「教える」という教育活動を通して、教えることの難しさや喜びを学ぶことができる。

実際に中学3年間リーダーを務めた生徒は次のような感想を述べている。

〇 人前に立つという経験はなかったので、緊張したけど、良い機会になった。
〇 ロボットをどのように教えるかということを考えることができた。
〇 自分の授業に対して、みんなが積極的に意見をいってくれて、もりあがった授業になり、感動した。

当初、リーダーの生徒たちから「つまらない」「面倒くさい」という声が出るのではないか心配したが、活き活きと授業展開する様を見て、ロボット教育の可能性をあらためて実感している。

生徒が教える授業

 

より人と関わる教育活動へ

プログラミング教育というと、コンピュータの前に一人座り、黙々と難解なプログラミング言語をたたいているイメージをもつ人がいるが、今、叫ばれているプログラミング教育はそうではない。

プログラミングという教育活動を通して、しっかり考え、学習内容をより深く理解するのが目的である。さらに、そこには協働して取り組む活動も当然入ってくる。

目を輝かせながらチームメンバーと意見をぶつけ、課題解決する姿を想像してほしい。教育現場において、人との関わりを意識した教育活動をもっと積極的に展開しなければならないと考える。

 

LEGO education

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