コロナ禍で明らかになった教育の課題
コロナ禍で社会の課題がクローズアップされ、国や自治体のアナログ対応に対して、日本は「IT後進国」と表現された。次代を担う日本の子どもたちが、グローバルな世界で活躍するためには、コンピュータサイエンスに関する教育実践をより普及・啓発しなければならないことを痛感する機会になった。
2020年より小学校でプログラミング教育が本格的に導入される。教育の成果はすぐに出るものではないので、「目に見えて変わった」と言えるものではないが、「IT後進国」から脱却するためにも、ロボット教育やプログラミング教育の推進を願うばかりである。
とはいえ、課題も多い。多くの先生方や教育委員会の方々とも話をするが、すでに素晴らしい教育実践をする学校がある一方、「環境設定・教材などの準備をはじめたところである」「感染症対応でそれどころではない」という声も聞こえる。
プログラミング教育の指導者に伝えたいことは、手をこまねいてためらうのではなく、「まずは、やってみること」である。小学生を対象にしたプログラミング教育実践はインターネット上にも豊富にあり、すぐに使えるものはたくさんある。ロボット教材はちょっと触って壊れるものではなく、壊すくらいの気持ちで「やってみること」が重要である。そして、より教育効果をあげるためにも、教える側がプログラミングという教育活動を楽しんでほしいと願う。それが子どもたちの未来を左右するのだから。
コロナ禍では家庭教育も注目された。プログラミング教育も、学校まかせではなく、保護者が少し手を差し伸べるだけで、より意味のある学びにつながる。そこで、親子でも簡単に楽しむことができる教材を次に紹介する。
これからはじめる人におすすめの「micro:bit」
これまで、多くのロボット教材やプログラミング教材に触れてきたが、それぞれの教材には異なる狙いがあり、優越をつけるのは難しい。とはいえ、これからプログラミング教育をはじめようとする教員や保護者の方から、おすすめの教材について尋ねられたら、「micro:bit(マイクロビット)」をあげるだろう。おすすめのポイントを次の①~⑦に示す。
1 ブロックコマンドでプログラミングができるので、教えるのが簡単
ブロックを並べることにより、直感的に、簡単にプログラミングができる。はじめての人でも30分もあれば、簡単なプログラムをつくることができる。
2 動作環境の設定が必要ない
セキュリティ対策の関係で、学校のP Cにソフトをインストールすることができない場合が多い。micro:bitは、ブラウザ上でプログラミングができるので、インターネット環境があれば、すぐにはじめることができ、児童・生徒が家でもすることができる。
3 少ない予算で導入できる
ロボット教材は、1万円をこえるものがほとんどで、人数分揃えるには相当な予算が必要。それに対して、micro:bitは、1個あたり2000円台。1クラス分40個でも10万円にならない。
4 さまざまなセンサー搭載で学びの可能性は無限大
25個のLEDに加えて、明るさ・加速度・地磁気・温度のセンサー、そして入出力端子が搭載されているので、micro:bitだけで多くのことができる。
5 出力端子があるmicro:bitを差し込むだけでロボットに変身!
micro:bitと接続できるオプション教材も多数ある。例えば、新学習指導要領で例示されている豆電球の制御も簡単。micto:bitと合体すれば、車型ロボットになる教材もある。また、出力端子とスピーカー(イヤホン)を接続して、音階を奏でるプログラムもつくることができる。
6 「どのようにすればよいの?」「どんな実践があるの?」を解決する情報が豊富
すでに世界中で200万個ちかくのmicro-bitが販売され、多くの子どもたちが学んでいる。ゆえにネット上にも活用方法ならびに教育実践の情報が豊富である。
【おすすめのmicro:bitの活用サイト】
「micro:bit ではじめるプログラミング教育(サヌキテック)」
7 プログラミング言語への発展
ブロックでつくったプログラムを、ボタン一つで、PythonやJavascriptに変換してくれる。つまり、本格的なプログラミング言語の導入にも最適。ビジュアルコーディングを卒業して、テキストコーディングを学びたい中・高生にとっても、非常に有効な教材である。
「はじめてしまえば、半ばを過ぎている。」
これまで述べたように、プログラミング教育の鍵は「やってみること」。「難しそう」「分からない」と憂いていても成長はない。間違っても、失敗しても問題はない。赤ちゃんが立っては転び、歩いては転びながら、体の動かし方を学ぶように、失敗を繰り返しながら、一つ一つ学び、ゴールを目指す様が、プログラミング教育における学習行動なのである。
かつて古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスは次のように弟子に教えた。
「はじめてしまえば、半ばを過ぎている。」(アリストテレス)
えてして、私たちは言い訳を探して、面倒なことや苦手なことから逃げようとする。この言葉は「勇気をもってはじめたら、もう半分終わったようなものである」と、一歩踏み出すことの重要性を説いている。
これは、ロボット・プログラミング教育に限ったことではない。すべての分野に通ずるものではないだろうか。拙稿が、「一歩踏み出すこと」をためらう人に対して、少しでも背中を押すことに繋がれば幸いである。
【参考動画】マイクロビットの活用方法「はじめてのマイクロビット」