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ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2021.9.3

第12回  「GIGAスクール構想」とは

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

 

日本の学校では、一人一台端末ノートパソコンやタブレットなどと高速インターネット環境を整備する動きが急速に進んでいる。その理由として「コンピュータやプログラミングの勉強をするため」「コロナ禍で休校になったときに、オンライン授業をするため」と、理解している方も多いのではないだろうか? 間違いとも言い切れないが、この教育事業は、文部科学省が打ち出した「GIGA スクール構想」(201912月)に基づくものである。今回は、その「GIGAスクール構想」の目的と内容について考えたい。

GIGAスクール構想の背景

 国際的な学習到達度調査PISA34カ国の先進諸国で構成するOECDが3年ごとに実施している。

 PISA2018において、日本は、数学的リテラシー、科学的リテラシーともに上位にランクインした。しかしながら、気になるデータがある。PISAでは様々な実態調査も同時に行われ、「学校の授業におけるデジタル機器の使用時間」が最下位であった。一方で、「一人用ゲームで遊ぶ」については最高位に…… (下

※参考 PISA調査 デジタル機器、8割「授業で利用せず」 ゲームやチャットでは使うけど…」 『iza』 2019年12月3日記事

 Society5.0掲げる日本としては、未来を懸念すべき調査結果だったそこで、GIGAスクール構想がはじまった。当初、2023年度までに11台端末の整備を目指していたが、新型コロナウイルスの流行もあり、政策の実施が加速され2021年度には、ほとんどの学校で環境整備は完了する。ICT活用で世界的にも最も遅れていた日本の教育現場が、大きく変貌しようとしている。

 

GIGAスクール構想の目的

 GIGAとは「Global and Innovation Gateway for All」の略で、直訳すると「全ての子どもたちにグローバルで革新的な学びの入り口を」となる。これからの未来社会を創造する子どもたちが、グローバルで革新的な思考を養うこと。つまり、目的は、ICT 活用によって、これからの社会に必要な学力を構築することである。そして、GIGAスクール構想で目指す教育のキーワードは「1.個別最適な学び」「2.協働的な学び」である。

1.個別最適な学び

 GIGAスクール構想を念頭に、萩生田文科相は次のようなメッセージを述べた。

11台端末環境は、もはや令和の時代における学校の「スタンダード」であり、特別なことではありません。これまでの我が国の150年に及ぶ教育実践の蓄積の上に、最先端のICT教育を取り入れ、これまでの実践とICTとのベストミックスを図っていくことにより、これからの学校教育は劇的に変わります。この新たな教育の技術革新は、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学びや創造性を育む学びにも寄与するものであり、特別な支援が必要な子供たちの可能性も大きく広げるものです。201912月 文部科学大臣メッセージ

 これまでの一斉授業スタイルから、学習内容によっては、ICT端末を活用し、個別に学習する授業を展開し、子どもたちが主体的に学習に取り組み、学びの最適化を目指すのである。

 「個別最適な学び」には様々な概念があるが、実践事例を1つ紹介する。小学校のプログラミング教育を実施した場合、説明や操作についてわからない点はおのおの違うことから、教師が対応しきれないことはよくある。そこで、あらかじめ操作法の動画を作成し、それをクラウドに上げることによって、その動画をもとに、児童は個々で分からないところを繰り返しながらすすめることができる。結果的に一 斉に教えるよりも効率よく進めることができ、理解も深くなるというのだ

動画をみながらプログラミング

2.協働的な学び

 「協働的な学び」について、新学習指導要領で次のように述べられている。

ICTの活用により、児童生徒一人一人が自分のペースを大事にしながら共同で作成・編集等を行う活動や、多様な意見を共有しつつ合意形成を図る活動など、「協働的な学び」もまた発展させることができます。ICTを利用して空間的・時間的制約を緩和することによって、遠隔地の専門家とつないだ授業や他の学校・地域や海外との交流など、今までできなかった学習活動も可能となります。学習指導要領 協働的な学び

 ICT を使うことによって、これまでできなかったことが、できるようになることはたくさんある。生徒11人に端末を持たせることで、児童・生徒が 互いの考えをリアルタイムで共有することができ、双方向での意見交換が活発になる。さらに教員と生徒のコミュニケーションも行えるため、教員が生徒の学習状況や到達度をよりはやく簡単に把握することができる。さらに、ICTを使って国際交流する教育事例も数多くある

ICTを活用して海外の学校と国際交流

※参考 ICTを活用した学習場面のイメージ(文科省「教育の情報化に関する手引—追補版—(2019))

 

「教える道具」から「学ぶ道具」に

 もともと ICT は、「教える道具」として導入された。 それが、GIGAスクール構想によって、「学ぶ道具」に変わろうとしている。ここで忘れてはならないは、 目的はICTを使うことではなく、ICTを活用し学びを深めることであるという点だ。併せてGIGAスクール構想によって、教師の意識・役割の変革も求められている。

 

 

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