MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2022.3.4

第14回 GIGAスクール構想で学びを促進

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

前回・前々回「国が目指すGIGAスクール構想(第12回)」「GIGAスクール構想における自治体の取り組み(第13回)」とGIGAスクール構想によって1人1台の端末を使って学習する環境が整い、大きな変革が起きていることを述べてきた。今回は、学校現場での先駆的な取り組みを紹介したい。自治体によって、GIGAスクール構想の捉え方、その活用方法も異なる。例えば、端末をとっても、iPadなどのタブレットを用いるところもあれば、パソコンを導入するところも。パソコンも、Windowsパソコンだけでなく、ChromeBookのようなクラウドベースの端末も多く使用されている。前回の奈良市はChromeBookを用いた事例であったが、第14回は、小学校の具体的な取り組みに焦点をあて、Winndowsパソコンを用いた教育実践を紹介する。

高岡市立能町小学校の取り組み

2021年秋期、富山県高岡市立能町小学校のICT活用教育の推進を先導する澤村力也教頭に取材した。澤村先生は、以前よりICT活用教育やプログラミング教育を先駆的に実践し、また休日も地域の小中高生にロボット教室を開催2017年には世界規模のロボコンの日本代表コーチとして選手を指導するなど、顕著な功績を残している。今回は、勤務する能町小学校の取り組みについて伺った。

高岡市立能町小学校 澤村力也教頭

――コロナ禍での学校状況は?

幸いにして、2021年は、富山県がステージ4になることはなく、学校を閉じることはありませんでした。しかし、感染リスクを懸念する家庭もあり、高岡市ではオンライン授業も選択できるようになりました。そのため、どの子供にも学校教育が大きく滞ることなく、運営できました。オンライン授業を併用することで、不登校であった子供も授業に参加しやすくなったことはよかったと思います。 

――ICT活用による学習効果は??

高岡市では、Windowsパソコンを使っています。子供たちのタイピングの向上は驚くばかりです。授業でも、デジタル教科書(国語・算数)を使って、端末を活用した学習を行っています。

授業の様子

ICTというと、授業での活用に目が行くのですが、本校の場合、とくに教員の授業向上に大きな効果がありました。小学校の場合、一人の先生が多くの教科を担当します。隣のクラスと同じ内容を学習しているにもかかわらず、互いの授業があるので、他の授業を参観できる機会はあまりありませんでした。授業展開に悩むことがあっても、他の授業を参考にすることが難しかったのです

今回、コロナ禍で保護者の授業参観をオンライン参観にしたことがきっかけで、互いの授業をビデオ撮影し、教員の授業研究・教材研究に活用できるようになりました。それが、教員の授業展開の不安をなくし、授業力向上の一端となったと思います。また、情報交換の効率化をはかるために、私たちの小学校では、Teamsを活用しています。児童用、教員用、さらには分掌ごとにもTeamsを活用し、業務改善にも努めています。

――プログラミング教育は?

発達段階に応じて、micro:bit(以下:マイクロビット)を用いたプログラミング教育を展開しています。コンピュータの中の世界で終わらせるのではなく、ものづくりの要素をとり入れたかったので、マイクロビットやロボット教材(micro:Maqueen DFRobot社)を用いた学習内容にしました。主な取り組みは次の通りです。

学年 教科 学習内容
小2 図画工作 マイクロビットでアニメーション制作
小3 音楽 マイクロビットで作曲
小4 理科 Maqueenを用いたロボット制御(モーター制御)基礎
小5 理科 Maqueenを用いたロボット制御(モーター制御)応用
小6 算数 Maqueenを用いたロボット制御で多角形の描写

動くモノを見ることで、結果がわかりやすく、プログラムについても直感的な理解ができるのです。また、誤差もあって、思ったようにならないのも醍醐味で、課題解決の力にも繋がります。授業の様子を見ていただいて分かるように、子供たちが大いに楽しんで取り組んでいることが何よりです。

子供たちも楽しそうだ

――効果的にICT機器が活用できている要因は?

GIGAスクール構想立ち上げの際に、「子供たちのために楽しいことをしよう。面白いことをしよう。」と話し合いました。また、能町小学校でICT活用が進んだのは、やはり情報担当の教員の存在が大きいです。若手ですが、どんどん授業をTeamsにあげて、「見てください。教えてください。」と積極的に取り組んでいます。そうすることで、授業共有のハードルが低くなり、教師間で気軽に情報交換できる雰囲気になりました。

――ICT機器の導入によって、課題はありますか?

どこの学校でも同じかもしれませんが、最初は物珍しさに色々な機能等を試してみました。Teams内で落書きをする子供がおり、問題になりました。しかし、パソコンは、教科書と同じで、大切な学習の道具であることを説き、子供たちと一緒にルールづくりをしました。子供たちが自らルールをつくったこともあり、規範意識も高まり、問題はほとんどなくなりました。とはいえ、管理職として、いつもTeams内の子供たちの書き込みを確認しています。

――ICT活用は、大きな学習成果に繋がりましたか?

今年度の全国学力調査テストにおいて、能町小学校は昨年以上の成果を上げることができました。しかしながら、ICT活用だけがこのような成果を生んだとは思っていません。4年前から、「基礎・基本の学力の定着」を学校目標にし、できないことを、できないままで終わらせるのではなく、地道に子供に寄り添いながら取り組んできた成果と考えています。ただ、子供たちの理解を深めるために、よい授業をすることは不可欠であり、ICTを活用した授業や授業研究が役に立っているのは事実です。 

変わる教育手法と変わらない本質――取材を終えて 

ICT活用教育を考えた時、「何を使った」「どのように使った」という教育手法に目がいき、目的を見失うことがある。学校教育において、学力の向上ならびに子供たちの成長を念頭にした教育展開を忘れてはいけない。今回、GIGAスクール構想を具現化する能町小学校の取り組みを紹介する中で、あらためて「教師の願い」の重要性を感じた。時代によって教育手法は大きく変わっても、教育の本質は普遍なのかもしれない。

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