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ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2022.9.2

第16回 社会課題と向き合い 学ぶ目的が生まれるSTEAM教育

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

 

皆さんはSTEAM教育をご存じだろうか? 近年、世界中で、STEAM教育が注目されている。STEAM教育は、様々な課題に対し多面的な解決方法を考えることから、より実社会との接点も多い。また、コンピュータサイエンスによるアプローチも考えられることから、プログラミング教育とも関係性が強い。今回はSTEAM教育について考えたい。

STEAM教育とは

STEAM教育の概念図

 STEAMは、科学(Science)、技術(Technology)、 工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)の頭文字をとったもので、各分野の壁を越えて、横断的に統合的に学ぶことを意図している。そして、生徒たちが様々な課題に取り組む中で、新たな課題を見出し、それを問題解決するための方法を創造し、物事を多角的に捉える力や新たな価値を生み出す力を培うことを目的とする。

 2013年、アメリカの教育改革の中で、問題解決、批判的思考、企業家精神、創造性などの21世紀スキルの育成をねらいとしたSTEM教育5カ年計画が発表された。その時、オバマ大統領が米国の子どもたちに対して、「ゲームをするのではなく、ゲームをつくろう」と呼びかけた演説はあまりにも有名である。

資料1:President Obama asks America to learn computer science(動画) 

 そして、STEM教育の定義を拡張し、コンピュータサイエンスを含めたり、社会課題と結び付けたりして、人文科学の分野にも広がっていることから、アートやデザインを統合したSTEAM教育として発展し、アメリカだけでなく、イギリスやシンガポールなどの諸外国でも様々な実践が展開されている。

 

日本の学校教育におけるSTEAM教育の方向性

 日本でもSTEAM教育の重要性への理解が広がっている。2022年の高等学校の学習指導要領改訂にともない、「学校教育におけるSTEAM教育等の教科等横断的な学習の推進」の中でSTEAM教育について次のように方向性が示されている。

「学習の基盤となる資質・能力(言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等)や、 現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を育成するため、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図ることとされている。STEMに加え、芸術、文化、生活、経済、 法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でAを定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進することが重要である」

 これからの高等学校教育の重要ポイントである教科横断的な学習および「総合的な探究の時間」の設定において、STEAM教育の実践が求められているのである。

 

STEAM教育の実践例

 STEAM教育の先駆的な実践として、大阪市にある追手門学院大手前中高等学校の実践を紹介する。ロボットサイエンス部の中高生が「デザイン思考をもとに SDGsの課題解決を目的としたロボット開発活動」をモットーに社会課題を解決するロボットをつくっている。過去には手話通訳ロボットや海上ゴミ回収ロボットなどを製作し、国内外から高い評価も得るとともに、2022年度も「医療支援を目指した薬管理システム」や「地域活性を目指したゲームアプリ」の開発などを行っている。

自分で決めたテーマのロボットを製作

医療支援を目指した薬管理ロボット 

資料2:科学技術振興機構Science Window 「ロボット教育×SDGsで『みんなが笑顔になれる』社会をつくる」https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/sciencewindow/20210603_w01/

 2021年、彼らの活動に対し、国の教育機関である科学技術振興機構(JST)が「STI for SDGsアワード」に認定し、受賞理由を次のように述べている。 

「生徒自身が自主的に社会課題への関心を持ち、研究テーマを設定し、その課題の原因と解決策について深く掘り下げた議論をしながら活動するという姿勢や、課題の原因と解決策を掘り下げる、プロトタイプを必ず作る、先輩と後輩でチームを作るなど、教育プログラムとしても高いレベルで確立されている点が高く評価された。生徒自身の活動の内容に加え、社会課題をテーマに設定したSTEAM教育の好事例として他の教育現場にも広く周知したい取り組みであり、SDGs目標の達成に貢献する取り組みとして、選考委員会において次世代賞にふさわしいと判断された。」

 実際の生徒の活動概要をまとめた動画があるので、ご覧頂きたい。

資料3:部活で目指すSDGs(動画) 

 彼らはロボットやアプリなどの「モノをつくる」ことによって、社会課題への解決により踏み込んだアプローチをしているのである。とはいえ、「モノをつくる」ことは簡単ではない。むしろ失敗の連続である。そして、数々の失敗の中で、学問の本質を学び、未来社会に必要な資質・能力を身につけていく。

 

STEAM教育の課題と展望

 現在、探究の様々な取り組みが行われているものの、「課題について話し合い、解決方法を考え、ポスターにまとめる」ところで留まる実践が多い。また、先述した中高生の活動は、先駆的なSTEAM教育の一例ではあるが、課外活動であり、カリキュラムに組み込まれた授業ではない。そのため、STEAM教育を学校教育として一般化させるためにも、高度なカリキュラム開発が重要である。加えて、STEAM教育は教科を横断し、かつ様々な方法で課題解決のアプローチをするため、準備や指導に手間もかかり、指導教員の力量も試される。「社会課題について、どのように向き合い、解決するか」を生徒たちにとことん考えさせることは、テストの点を取らせることよりも難しい。 

 このような課題はあるものの、STEAM教育の教育効果は大きい。学んだ生徒がプログラミングスキルにおいて、教員のスキルを遙かに超えることも多々。教室から飛び出して、自ら専門家と繋がる生徒も現れる。そして、「偏差値○○の●●大学に行く」ではなく、「○○を学びたいから●●大学に行く」というはっきりとした学ぶ目的も生まれ、結果、教科の学力向上にも繋がることを目の当たりにしてきた。

 政府が示すSociety5.0を担う子どもたちのためにも、日本でのSTEAM教育のさらなる発展に期待してやまない。

 

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