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ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2022.12.2

第17回 STEAM教育の先進校から学ぶ

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

 

ロボット教材を使えばSTEAM教育になるわけではない

 2022年より高校では新教育課程が施行され、「情報I」の設定や「教科横断の学び」などが謳われ、「総合的な探究の時間」STEAM教育の実践が推奨されている。しかし、「教科横断=STEAM」と誤解する生徒・教師も多く、ロボット教材を用いるだけで、STEAM教育と称するケースも多い。言うまでもなく、STEAM教育は、様々な科学的な手法による課題解決を意図した教育であり、「プロジェクト型の学び」の要素が重要である。つまり、与えられた課題ではなく、自ら課題を見いだし、あらゆる科学的な手法で課題解決を目指す教育なのである。そこで、STEAM教育の先進実践校である奈良県立奈良高校の実践をもとに、「総合的な探究の時間」のあり方、さらにはSTEAM教育を理解する機会につなげたい。 

 

奈良高校の実践

学校の概要

 同校は奈良県屈指の進学校として、「自主創造」を旨とした教育実践を展開。平成16年より科学技術系グローバルリーダーの育成を目指して、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)として、先進的な科学教育を実践し、多くの教育成果を残してきた。

どのような実践内容か

 卓越した「科学的能力」「企画提案力」「マネジメント力」「国際感覚・ 国際理解力」の醸成を目指し、例えば、「SSP理数」(2時間)の授業では、生徒たちは一つのテーマについて長期的に研究活動を行う。

 「入り口は重要。教師から研究テーマはあたえるようなことはしません。必ず自分で決めさせます。」と同校のSSH事業を率いる仲野純章教諭は言う。さらに「研究テーマが決まってからが、教師の出番です。課題解決になるよう、研究の方法論を徹底的に教えます。」と続ける。指導においては、特に次の2が意識されている。

1 先行研究を意識した上での追究意義があるか
2 アプローチは課題解決的であるか

SSH事業を牽引する仲野純章教諭

 これまで生徒たちが取り組んだテーマは様々で、大学生の卒論レベルを超える内容も多々。最近の代表的な研究テーマを次に記す。

・炎の導電性の研究(SSH生徒研究発表会ポスター賞、他)
・海水の淡水化の研究(日経ウーマノミクス住友電気工業特別賞)
・ポリピロール電池生成時の変色の研究(化学工学会学生発表会奨励賞、他) 
・拡散炎における煤形成過程の研究
(電気学会U-21学生研究発表会優秀賞、他)

 授業見学に行った際、柿渋の成分を用いたマスクについて研究しているチームがいた。そのチームは奈良県農業研究開発センターの専門家から、柿のカテキンについてレクチャーを受けていた。また、太陽光の散乱を再現する実験に取り組むチームもいた。

柿渋について専門家からのレクチャーを受ける

水中に不純物を入れたときの光の様子を調べる実験

 このような研究は、大学受験に必要な学習内容ではない。しかしながら、彼らは、目を輝かせながら、自分の課題に向き合い、失敗を繰り返しながら、見えない解に取り組んでいた。自分たちが決めたテーマだからこそ、難解な課題であっても積極的に取り組めるのだということを肌で感じた。

 

成果と課題

 8月のSSH生徒研究発表会で発表した廉明徳さん(3)は、研究活動を振り返って次のように語ってくれた。

「私は、奈良の墨づくりに欠かせない『すす』について研究しました。 づくりは、長年にわたり行われてきたにも関わらず、職人さんの経験による部分が多く、科学的な理解はほとんどなされていません。研究を続ける中で、すすは炎の上方向に向かって成長していくのではなく、炎の中心部から横方向に広がる過程で形成されることなどがわかりました。こうした結果は学会で発表するとともに、海外雑誌にも論文掲載されました。この研究を通じて、研究の進め方や伝え方、チームビルディングについて深く学ぶことができ、将来、研究者になろうという決断もできました。 

研究発表する廉明徳さん

 仲野教諭からも、研究活動を通した教育成果についてうかがった。 

「目指す生徒像は、『物事の本質をみる生徒』。研究内容は大学入試問題などには出ませんが、研究力と試験などの学力は相関関係があるように見受けられます。自分のエンジンで動く決断力や行動力が、学力の向上にもつながっているのではないでしょうか。研究に力を入れた生徒は、大学に入ってからも活躍することが多い傾向にあります。」

 課題は、指導する教師の力量という。すべての教師が、これまで十分な研究活動をしてきたわけでない。また、研究の方法を指導するだけでなく、生徒以上に好奇心を持って向き合う姿勢も問われるのである。 

 

教師の願いが「探究」を「研究」に昇華させる

 教科横断でとどまらず、新教育課程のスローガンである「主体的・対話的で深い学び」を具体化したSTEAM教育が奈良高校の教育実践にあった。それは、これからの教師の役割が「教える」から「導く」へ重点を移すことを示唆し、その重要性と教師の力を入れるべき点をあらためて感じた。

 最後に仲野教諭の次の言葉が印象的であった。「『探究』を広く捉え、調べ学習で終わっている実践が多いと聞きます。あくまで、私たちの目指す『探究』は『研究』です。」そこには、確固たる教師の願いがあった。

 

LEGO education

 

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