MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2023.6.2

第19回 世界におけるSTEAM教育 ——世界に挑んだインドの高校生——

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

 

 前回、世界規模のロボコンであるWorld Robot Olympiad(WRO)国際大会のFuture Innovators部門における日本の小中学生の活躍を紹介した。同部門で驚くべき快挙があった。それは、同部門シニアにおいて、インドの高校生のチームが満点で優勝したことだ。満点ということは、すべての審査員がすべての評価項目において満点の評価をしたことになる。これまで、優秀なチームはたくさんあったが、満点をとったチームは聞いたことがない。今回は、インドの高校生のロボット開発活動を紹介し、世界のSTEAM教育の動向について考えたい。

 

インドの高校生のロボットチームへのインタビュー

 優勝した高校生チーム(ROBOLECTRO KINESIST)は、パーキンソン病患者のためにスマートスプーンを開発した。開発した高校生とコーチにインタビューを行った。

インド代表の高校生 左からアニルさん、パトワリさん、クマールさん

<チーム情報>
ROBOLECTRO KINESIST
https://robolectro.com/robolectro-kinesist-smart-spoon/

Q1 ロボット開発のきっかけは何ですか?

 数か月前、家族の夕食会で、年老いた叔父が食事の際、問題を抱えていることに気づきました。彼はパーキンソン病で、手の震えが止まらず、食べ物はいたるところにこぼれており、私を深く悩ませました。それが、私たちの心に火をつけました。パーキンソン病財団によると、世界中でおよそ900万人がパーキンソン病を患っており、2040年には2倍になると予想されています。世界的に有名な神経科医やドイツの医療機器企業と、私たちの開発構想について話し合い、スマートスプーンの開発に挑戦しました。

スマートスプーン開発紹介動画

Q2 スマートスプーンの特徴は?

 私たちが開発したスマートスプーンは、パーキンソン病の患者が自立して食事をするのに役立ちます。震えと水平を測定し、スプーンを地面と平行に保ち、震えで食べ物がこぼれないように2つのモーターを制御します。慣性測定ユニットを用いて震えより敏感に検知することで、成功に至りました。また、実用化を目指し、コンパクトで持ちやすいデザインにし、バッテリー寿命が長く、簡単に充電できるようにしました。

Q3 苦労した点を教えてください

 私たちが直面した課題は、水平に保つモーター制御でした。また、摩擦を減らすために3Dプリンターで正確な歯車を作らなければなりませんでした。6回の改良を繰り返し、完成しました。

Q4 世界大会に出場して学んだことは?

 ドイツで開催された国際大会では、さまざまな国の参加者と出会い、課題に取り組むための新しいアイデア、デザイン、ソリューションについて意見交換することができ、大きな刺激を受けました。また、プロジェクトの解決策を発表し、審査員や専門家からフィードバックを受け取ることは、自分たちのスキルを向上させ、この分野の理解を深める貴重な機会でした。

Q5(コーチに質問)コーチとして、STEAM教育の方法論とモットーについて教えてください。

 私たちは、RoboLectro STEAM Studioという教室を運営しています。主な目的は、子供たちに「魚を与えるだけでなく、魚を釣る方法」を教育することです。現実の課題をもとにSTEMの実践的な活動による教育アプローチを行っています。LEGO Mindstormを用いた基礎的なカリキュラムから始まり、さまざまなロボットを個別に製作しながら、機械、電子、およびソフトウェアのスキルを身につけます。さらに、与えられたテーマに基づいて独自のカスタムモデルを作成することで、生徒たちの創造性や革新性の育成に繋がります。WROだけでなくロボカップなどのロボコンにも、挑戦しています。

RoboLectro STEAM Studioの活動の様子

Q6(コーチに質問)あなたの国のSTEAM教育の現状について教えてください

 近年、インド政府は、経済成長のために高度なスキルを持つ労働力の創出を目指し、STEAM教育の質を向上させてきました。インドのいくつかの学校や教育機関は、STEAM教育をカリキュラムに取り入れ、さまざまなプログラムやワークショップを通じて生徒たちに実践的な学習体験を提供しています。また、先駆的なSTEAM教育にふれることのできる国の教育機関を立ち上げ、学生の革新性や起業家精神の育成を促進しています。インドでは、STEAM教育はまだ初期段階にありますが、学生が将来の仕事に備えるための準備を整え、革新性と創造性を育む上で、STEAM教育が重要であるという認識が高まり、官民あげてSTEAM教育の推進を図っています。

 

STEAM教育の一層の強化を

 WRO国際大会2022では、8つの部門において競技が行われたが、総メダル数の上位国は、台湾(4)、マレーシア(3)、インド(2)、タイ(2)、日本12ヶ国(1)という結果であった(カッコ内は獲得メダル数)。東南アジアの国々が本気になってSTEAM教育に取り組む姿が、メダル数からも感じることができる。日本では、プログラミング教育が導入されたものの、課題解決を意図したSTEAM教育のレベルには、まだまだほど遠い。日本のSTEAM教育が、なお一層強化され、世界をリードすることを期待してやまない。

 

LEGO education

 

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