MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2023.9.8

第20回 世界におけるSTEAM教育——マレーシアの公立校で展開されるSTEAM教育——

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

新学習指導要領でプログラミング教育が導入され、小学校だけでなく、中学校・高校でも本格的に展開されている。また、文部科学省は、高校の探究の授業においてSTEAM教育を推奨している。今回、海外の先駆的なプログラミング教育ならびにSTEAM教育の現状を紹介し、これからの日本の教育のあり方を考える機会にしたい。

マレーシアの公立学校におけるSTEAM教育

 前回、前々回と世界規模のロボコンで活躍する小中高に焦点を当て、ロボット教育やSTEAM教育について我が国が遅れをとっていることを述べてきた。一方、東南アジアのチームが懸命に努力し、成功を収めていることを目の当たりにしてきた。そこで、2023年3月、マレーシアのサバ州にある2つの公立学校を訪問し、プログラミング教育ならびにSTEAM教育の現状を視察した。今回はその様子をレポートする

1.SMJK Chung Hwa Tenom School (テノムの公立中等学校)のプログラミング教育

 テノムは、コタキナバルから南に150kmに位置する。コーヒー産業が有名な自然豊かな小さな田舎町。マレーシアでは、小学校4年生以上で「コンピュータサイエンス」という授業が、カリキュラムとして週に1~2回設定されている。参観したのは、中学3年生のコンピュータサイエンスの授業である

 最初の教室では、2~3人の生徒がグループをつくり、1台のノートパソコンを使ってPythonというプログラミング言語について学んでいた。日本では、スクラッチのようなビジュアルコーディングを行っている学校が多い中、テキストコーディングが当たり前のように行われていた。テキストコーディングとなると、「難しい」「できない」という声も出るのではと心配したが、エラー解決楽しみながらプログラムを作成していた。

Pythonの授業が行われていた

 隣の教室をのぞくと、Arduinoを用いてLEDを点滅させる授業。Arduinoとは、プログラムを組み込むことで、センサー検知やモーター制御を行うことができる小さなコンピュータである。プログラム作成だけでなく、ArduinoとLEDを導線で繋ぎながら、電子回路を学んでいた。プログラミング教育において、プログラミング言語を学んだり、高度な教材を用いたりすることがすべてではないが、生徒たちが、試行錯誤しながら、楽しそうにキーボードをたたいている様子が印象的であった。

Arduinoを使った電子回路工作

2.SMK Bandaraya Kota Kinabalu School(サバ州最大規模の公立中等学校)のSTEM教育

 サバ州の州都であるコタキナバルで最も大きな公立学校に訪問した。この学校は、STEM教育の先進校として評価されている。STEMとは、STEAMの前身にあたる概念ではあるが、教員だけでなく生徒の口からもSTEMという言葉が頻繁に使われることから、長期にわたり実践されてきたことが分かる。また、学校紹介の際、「2619人の生徒に対し、127人の教員、 そして25人のSTEMの教員により学校教育が行われている」との説明にあるように、STEM教育学校教育の軸にしている

 実際に生徒たちの取り組みや発表を参観することができた。生徒たちは、数人でチームを組み、自分たちのテーマに沿って、「形のあるモノ」を作成し、課題解決を試みていた。環境に優しい住宅を構想しモデル化する生徒もいれば、水耕栽培の実験・分析する生徒も……。まさにそれは課題解決学習(PBL:Project Based Learning)である。日本でもSTEAM教育が注目されるようになったものの、ロボット教材さえ使えばSTEAM教育であると勘違いするケースも多々。STEMやSTEAMが意図する課題解決に繋げている先駆的な実践に、驚嘆せざるを得なかった。

環境に優しい住宅のアイデアを発表

水耕栽培の実験・分析

日本は大丈夫か?

 マレーシアに滞在中、「STEM」という言葉をどれくらい耳にしたことだろう。多くの教育関係者と踏み込んだ教育談義をしたが、未来社会で生きる子どもたちのための教育ビジョンを理解・共有し、公教育におけるSTEAM教育の実現に向けて協力している様が、手に取るように分かった。日本では社会課題解決を意図したSTEAM教育を実践する学校はまだまだ少ない現状に対して、マレーシアでは、公立学校で広く展開されていることに、ただただ驚くばかりであった。

 マレーシアの先生から「日本ではプログラミングの授業をどれくらい行っているのか」という質問を受け、次のように答えた。「日本ではGIGAスクール構想によって、1人1台のタブレットやPCが与えられ、活用されている。しかしながら、小学校では、コンピュータサイエンスという教科はなく、従来の教科の中で、プログラミング教育が行われている。中学校でも、技術でプログラミングの授業が行われているが、材料加工や生物育成などの学習も行うことから、プログラミングという学習活動は決して多くない」と。すると「科学技術の進んだ日本ではもっとさかんにプログラミング教育やSTEM教育が行われていると思っていた。それで日本は大丈夫か?」との反応で、私の回答は彼らには期待外れだったようだ。グローバル社会が謳われる中、教育の分野においても、グロバールな視点で考える必要があることを痛感した。日本の教育課題はここにもあった。

LEGO education

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