MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2023.12.1

第21回 世界におけるSTEAM教育 ~マレーシアから学ぶSTEAM教育発展の鍵~

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

 

日本でも注目されているSTEAM教育。前回は、海外に目を向け、先進的なSTEM教育を推進するマレーシアの公立学校の実践を紹介した。マレーシアに滞在中、様々な学校および教育機関を訪れたが、どこに行っても、第一声は「STEM」、そして「Innovation(改革)」であった。彼らが「STEAM」ではなく、あえて「STEM」と呼称するのは、「A」の曖昧さをなくし、目的を明確にしたいからだと言う。それだけ、国の教育方針が定まり、共有されている。また、多くの学校や教育機関が互いに連携し、指導者どうしのつながりも強い。今回は、マレーシアの教育を支える教育機関を紹介し、STEAM教育の発展の鍵について考える機会にしたい。

 

マレーシアのSTEMを支える様々な教育機関

1 誰もが学べるマレーシアの高専 Politeknik Kota Kinabalu

 日本にも工業高等専門学校(高専)はある。日本の高専の場合は、高校に行くか、高専に行くかの選択になるが、マレーシアの場合、最初の2年間は夜学。つまり、高校に通う生徒が、専門的な知識や技術を学ぶために、日本で言うダブルスクールのように高専に通うのである。そして、高校卒業時に、大学に進学するか、高専に進学するかという選択になる。このシステムの利点は、STEM教育がさかんでない高校に通う生徒にとって、深く学ぶ機会をもつことができる点である。また、誰もが受講できるよう、授業料も安く抑えられている

2 技術力と創造力を育む職業訓練校 Sabah Skills & Technology Centre

 社会における実践的なスキルを身につけることを目的として、溶接、調理技術、農業、石油・ガス業務など、さまざまな実践的な研修プログラムを提供している。興味深い点は、基礎的な技術を習得するだけでなく、意欲を高め、表現力を高めるカリキュラムが組まれており、学生が自由に作品を制作することができる。優れた能力を身につけ、州経済の発展に貢献することを目指している。

3 様々な生徒を支援するNPO教育機関 World of Wilderness : Recycle Education Center

 家庭環境に恵まれない子どもたちが学ぶリサイクルセンター。ここでは、様々な資源ゴミを分別し、その収益が還元される。ゴミの分別だけでなく、農業や環境をテーマにした様々な体験をできる施設になっており、社会と直結する教育機関である。

4 プロのプログラマーが若手を育成 Sandbox Digital IoT Centre

 若手プログラマーが壁にぶつかったとき、訪れる場所がSandbox。ここでは元Googleのプログラマーなどの専門家が指導助言を行う。彼らは、未来の自国発展のために、すべてボランティアで運営している。私が訪問した際も、数名の若手プログラマーが助言を求めて来訪していた

5 企業が運営する無料の科学館 PETROSAINS Science Education Center

 マレーシアの大企業ペトロナスが運営する無料の科学館。日本のような大がかりな装置はないが、たくさんのスタッフが常駐し、科学実験を通して、子どもたちの科学的好奇心を刺激している。

6 学校と企業、関係機関を結ぶ国の機関 Sabah Creative Economy and Innovation Centre

 1~5のような教育機関や学校との連携の中心にあるのが、Sabah Creative Economy and Innovation Centre(SCEIC)である。SCEICSTEMを推進するために設置された国の機関であり、目的に応じて、様々な教育機関と学校との連携を促し、成功に導く。マレーシアのSTEM教育の発展において、SCEICの存在は欠かせない。日本では、先進的な教育実践があるものの、学校内で完結る場合が多い。SCEICのような点と点の教育実践を、線に面に結ぶ組織が重要であることを痛感した。

 

世代や立場をこえた繋がりがSTEAM教育発展の鍵

 「ロボットを用いたらSTEAM教育」「課題解決を伴わないSTEAM教育」など、日本では誤った認識によるSTEAM教育実践を散見する。今回、マレーシアの公立学校をはじめ多くの教育機関を訪れ、本質を捉えたSTEAM教育を目の当たりにした。そして、学校は生徒たちの笑顔であふれ、指導する教員は、彼らの憧れの的であった。学校教育を地域が国が、しっかりと連携・支援することにより、大きな成功を収めていると感じた。

 最後にTenom市で開催されたメイカーフェア2022を紹介する。小中高校生と、教育機関や企業が連携してることが、映像からもよく分かる。世代や立場をこえた繋がりが、STEAM教育発展の鍵であることをあらためて認識した。

 

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