MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2024.6.7

第23回 社会全体で教育を支える仕組みを——デジタルに触れる、表現する機会を提供する「ミミミラボ」

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

 GIGAスクール構想により、教育現場におけるICT機器の普及率は、世界トップレベルになった。しかしながら、「プログラムをつくる」「ロボットを制御する」など、いわゆるプログラミング教育については、地域や学校による活用の格差が大きく、課題も残る。前回、洗練された教材の提供によって、日本のプログラミング教育を支えるNPO法人「みんなのコード」について紹介した。「みんなのコード」は、教材配信だけでなく、地域に根差した取り組みもしており、子どもたちのために、創造的な学びや活動の場を提供している。今回は、その1つである石川県金沢市にある「ミミミラボ」について紹介する。

 

好きなことに挑戦できる「デジタル」をテーマにした学びの場

 ミミミラボは、金沢を創業の地とする三谷産業株式会社とテクノロジー教育の普及を目指すNPO法人「みんなのコード」が運営する施設であり、10代の子どもたちが気軽に、そして安全にテクノロジーに触れることができる場を無償で提供している。

ミミミラボ

 部屋に入ると、コンピュータやロボット教材、3Dプリンターなどのデジタル機器が、所狭しと置かれている。放課後になると、興味のある子どもたちが訪れ、大賑わいに。テクノロジーを活用した活動といっても、多くの分野がある。ゲーム作成、ロボット制御、電子回路工作など、挙げればきりがない。訪れた子どもたちは、様々なデジタルコンテンツに触れ、自分の好きなことを見つけ、取り組んでいる。中には、World Robot OlympiadやFIRST LEGO Leagureのような世界規模のロボ ットコンテストに挑戦し、全国大会に出場する子どもたちもいる。「好きこそ物の上手なれ」を具現化した教育環境に驚くばかりである。

 しかしながら、やりたいことができる環境を整備することは、決して簡単ではない。民間が運営するプログラミング教室やロボット教室のほとんどは、設定したカリキュラムの中で教育実践が行われている。ミミミラボが、個に応じた環境構築を目指す理由は、単なるプログラミングスキルの醸成ではなく、「好きなものを見つける」「好きなことに打ち込む」という学びの本質にあるといえよう。

 

不登校の子どもたちのための学びの場

 別の部屋をのぞくと、ドラムなどの楽器やテントが置いてあった。金沢の大学生がメンターとなって、プログラムの作り方だけでなく音楽や絵画なども教えている。ロボットを作ったり、楽器を練習したり、時にはテントの中で本を読んだりと、子どもたちが自由に活動できる。ミミミラボは、好きなことに打ち込む場であると同時に、少し大人のメンターたちとのつながりを通して、子どもたちの心の拠り所となることを目指しており、不登校の子どもたちも訪れる。開館が13時というのも、その理由である。ここでは、デジタル機器や楽器などの「モノ」だけなく、「ヒト」との関わりを通して、子どもたちの成長を促しているのだ。

 現在、日本の不登校児童生徒は30万人をこえ、大きな社会問題になっている。解決策の一つとして、フリースクールなどの学びの場が各地にあるものの、内容も様々で、費用的な面から学びの機会を失っている子どもも少なくない。ミミミラボのような学びの場を望む子どもたちや保護者も多いことだろう。

 

社会全体で子どもたちを育てる

 ミミミラボの存在は、教育行政の手の届かないところに焦点を当てており、このような空間が全国で展開されることが望まれる。しかし、デジタルを学ぶ機会の提供やフリースクール的役割を無償で提供することは、官民あげた地域の支援なしでは不可能である。地域の企業が教育貢献のために財政面もふくめて支援していることは、頭の下がる思いであり、敬意を表したい。日本の教育課題が山積する現状を考えると、短期による公教育環境の抜本的な改善は難しい。それゆえに、社会全体で子どもたちを支え育てることは、日本の未来への活路につながると信じたい

 ミミミラボの「ミ」は、運営する「みんなのコード」、地元企業である「三谷産業」、そして「みらい」を表している。『教育は、国の未来を創る』――ミミミラボを訪れ、日本の教育改革の ヒントを見つけることができた。

※「地域が一体となって子どもを支える仕組み」の重要性については、鈴木寛氏(元文部科学副大臣)も教育誌で述べている。 「未来の教育は『地域一体』『民間の力』が鍵 ― 元文科省副大臣 鈴木寛」(コエテコマガジン 2019)

 

「ミミミラボ」館長 溝渕健作先生からのメッセージ

 大人の目を気にせず、子どもたちが自分の「好き」に没頭できる環境にするためには、何をすれば良いのかを日々考え、トライ&エラーを重ねる毎日です。子どもたちと接する中で学ぶことも多く、特に子どもたちの好きに対する情熱が半端ない事に気づかされます。この熱量が物事を達成する要因だと感じ、私自身も子どもたちを見習い、進化し続ける大人になりたいと思うようになりました。子どもたちの夢や興味に深く共感し、真剣に支援することで、子どもたちの成長を全力でサポートしていければと考えています。

溝渕 健作 館長

ミミミラボ https://mimimi-lab.jp/
開館時間
水・木・金:13時~20時 土祝:13時~18時

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