MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2024.12.6

第25回 STEAM教育で人を育てる~「STEAM Campus」の教育実践から教育の本質を考える~

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

新学習指導要領(高校)の「総合的な探究の時間」推奨されたこともあり、STEAM教育が広く認識されるようになりました。このコラムでは、海外の取り組みを含め、STEAM教育の重要性を紹介してきました教科横断による課題解決を目指すSTEAM教育の実践は、指導者の力量が求められます。また、理想的な姿であるデジタルデバイスを活用した実践教員の労働環境の問題などのハードルもあり、国を挙げて推進する体制が整っているとは言えない状況です。こうした課題に対して、公教育だけに頼るのではなく、官民が一体となって推進することが重要です。今回は、レゴエデュケーション教材を使用して、子ども達にSTEAMに関連した学びを提供する教室「STEAM Campus」での教育実践をもとに、STEAM教育の好事例を紹介します。

STEAM Campus の教育方針

 アップ「STEAM Campus」は、大手進学塾「研伸館」などを運営するアップ教育企画が展開する教室です。20244月からSTEAM教育にいっそう重点を移したSTEAM Campus」として教室展開されています(関西で6校)。新年少から中学生に至るまで、発達段階に応じたカリキュラムが設定されていて、ブロック製作やプログラミングだけではなく、論理的思考力やプレゼンテーション力などを含む一貫した学びを提供しています。非常に興味深いところは、プログラミングはあくまでも手段であり、社会で生きる力を育むことを目的に、「子どもたちの好きを極める」ことを教室方針の軸にしている点です。とくに小学校高学年以上の授業では、SDGsSociety5.0をテーマに社会課題を解決する教育プログラムが設定されています。その学習の流れは大まかに次のようになっています。

1 少人数でチーム構成
2 社会課題の問題点や解決方法についての議論
3 その解決のためのプロトタイプ(ロボット)を製作
4 発表会で発表

アップ「STEAM Campus」の教育プログラム

 生徒たちが製作したロボットを見ると、お店のセルフレジを改善したシステム、工場の人手不足の問題を解消するフルオートメーションシステムなど、大学の研究かと思うくらいの内容です。STEAM Campusの教室には様々なロボットが展示されており、子どもたちの熱い思いが伝わってきます。

【アップ STEAM Campus】
https://up-edu.com/steamcampus/

日頃の授業で大切にされていることは?
STEAM Campus」の先生に直撃インタビュー

 実際に子どもたちに指導されている片山真衣先生と井元真理子先生にお話をうかがいました。

片山先生:現在の教育は結果を求める傾向があります。結果だけを追い求めるのではなく、学びの過程を大切にしながら指導しています。指示やマニュアルがないと何もできないのではなく、その場その場で臨機応変に対応する力を育むことができればと思っています。子どもたちの主体性を大切にし、遊びながら楽しみながら学んでいく教育活動をすすめ、子どもたちの成長を見守っていきたいと考えています。

片山真衣先生

井元先生:学校教育は、○か×かという尺度で測りがちです。間違いや否定を避けるために、自分の気持ちを押し殺して、周りに合わせる子どもたちが多いのも事実です。一方、社会に出たとき、答えがある問題よりも答えがない問題ばかりです。自分の考えや意見を言うことは、すぐにできることではありません。小さいうちから発信する環境づくりが重要と考えます。また、他人の意見を否定するのではなく、お互いに理解することによって、より成長に繋がると思います。私たちの教室が、そのような場になり、子どもたちにとって心の拠り所になれば嬉しいです。

井元真理子先生

生徒の成長エピソード】
 中学生Aさんは、年少から入学。自分の感情をうまく表現できず、「わからない」を繰り返し、時にはブロックをひっくり返すこともありました。保護者からも相談を受けましたが、向き合ってあげないと解決しないことを伝え、粘り強く指導を続けました。自分の中で処理しきれないことも多々あり、彼自身も悩む日々。5年生の時、「俺、このままではあかんと思うねん。ちょっと心入れ直してやり直すわ」と。その時を境に、人が変わったかのように取り組むようになりました。今では、グループで話が進まないときに調整をしたり、プログラミングに困っている友だちを助けたりと、周りの世話を見るまでに。「自分はやればできる」「周りは自分を信じてくれている」という思いが、彼を大きく成長させたと、保護者の方と一緒に喜んでいます。

生徒の心に火をつける教育

 小学校でプログラミング教育が導入されて以降、全国でたくさんのプログラミング教室やロボット教室を見かけるようになりました。多くの子どもたちに指導しなければならない現実もあり、マニュアル通りの授業展開になりがちです。言うまでもなく、おのおのの教育方針、教育方法があり、単純に比較することはできません。しかしながら、課題解決を意図したSTEAM教育を実践するには、課題設定、解決方法の思考、プロトタイプの製作、検証など、手間がかかります。STEAM Campusを訪問し、民間教室でありながら、「子どもたちの好きを極める」という理念がただの理想論ではなく、目に見える形で具現化された様子を見てSTEAM教育の本質を貫く教育実践に驚くばかりです。また、子どもたち一人一人を個として捉え、彼らの成長を心から願っている先生方の姿勢に、教育の原点に立ち返る機会を得ました

 米国の教育者であるウィリアム・ウォードは次のような言葉を残しました。「平凡な教師は、言って聞かせる。良い教師は、説明する。優秀な教師は、やってみせる。最高の教師は、生徒の心に火をつける。」まさに子どもたちに寄り添い、彼らの心に火をつける教育活動を目の当たりにしました。

 公教育の様々な課題が山積する中、民間の教育機関が救世主になることを痛感し、民間による教育推進ならびに官と民の連携が教育再生の鍵になることを確信しました。

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