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ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2025.3.7

第26回 2025年度共通テスト「情報I」の中身と意義

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

新学習指導要領の改訂にともない、2025年度の共通テストの出題教科も大きく変わりました。とくに2025年1月19日に行われた共通テストの「情報I」は、日本における情報教育の重要性を改めて示すものとなりました。このテストは、情報化社会において必要な知識とスキル指針を提供するものであり、教育現場や社会の多くの関心を集めています。今回は、共通テスト「情報I」概要各方面の声をご紹介します。

 

共通テストで「情報I」が実施された背景

 日本では、急速に進展するデジタル化とグローバル化に対応するための教育改革の必要性が叫ばれてきました。とくにICT(情報通信技術)教育の充実が不可欠だという認識が広まり、2022年からはじまった高校新学習指導要領に基づき、「情報I・II」の授業が設定され、この必修科目の一環として全国規模での共通テストの実施が決定されました。これまで高校において情報教育が展開されていましたが、その教育内容および質について、課題が指摘されていました。「情報I」の共通テストの導入は、情報リテラシーや基礎的なプログラミングスキルの習得を目指す取り組みの一環として位置づけられており、日本の情報教育の推進と発展が期待されています。

 

「情報I」出題された問題の傾向

 2025年の共通テスト「情報I」では、コンピュータリテラシーの基礎から、情報の収集・整理・発信まで多岐にわたる内容が問われました。とくにプログラミングに関する問題やデータの分析・活用についての設問が多く見られました。また、実生活における情報の利用ケースを題材にした問題が出題され、単なる知識の暗記ではなく、問題解決能力や実践力が試される内容となっており、平均点は73.1点(中間集計)と公表されました。具体的な出題内容は次のようになっています。

第1問(小問4つから構成)
 問1は、情報セキュリティの分野からデジタル署名、通信プロトコルの分野からIPアドレスに関する問題。問2は、LEDによる表示パターンに関する問題。問3は、コミュニケーションの分野からチェックディジットに関する問題。問4は、情報デザインの分野からグラフィカルユーザインタフェース(GUI)の設計に関する問題。

第2問A(情報システム)
 スーパーマーケットの情報システムという身近な題材を用いて、システム理解と分析力を総合的に問う問題。

第2問B(シミュレーション)
 グループ会計の際におつりの1000円札が不足するかどうか、モデルを考えて表計算ソフトウェアによりシミュレーションを行う問題。

第3問(プログラミング)
 複数の種類の工芸品の製作という課題を、それぞれが製作に要する日数に応じて作業者に割り当てるためのアルゴリズムを理解し、プログラミング言語で記述する問題。以下に一部を抜粋。

第4問(データの活用)
 地方別、都道府県別の旅行者数に関するデータを題材として、様々なグラフから読み取れる内容を考察する問題。

【参考】共通テスト2025 情報I 全体概観・設問別分析(東進)

 

受験生からは「実践的」「解くことで理解が深まる」の声

 多くの受験生からは、「テストは難しかったが、実践的で役立つ内容が多く、やりがいがあった」という声が寄せられました。特に、プログラミング問題やデータ分析に関する問題については、問題を解くことで理解が深まったと言う受験生も多かったようです。一方で、「時間が足りなかった」「もっと事前に準備が必要だった」「過去問がなく、勉強方法に苦慮した」といった意見もあり、情報教育のさらなる充実が求められることが明らかになりました。

 

教員・保護者からの評価も良好

 教育現場や保護者からも多くのフィードバックが寄せられました。学校の教員からは、「生徒たちが情報教育の大切さを実感できる良い機会だった」という評価がありました。また、保護者からは「子どもたちが情報技術のスキルを持つことは、将来の就職や社会での活躍に役立つ」との期待の声が聞かれました。一方で、「普段の授業だけでは、十分な実践的なスキルを習得できない」「学校によって情報教育の質に差がある」との課題も指摘されました。

 日本の情報教育を牽引された中野由章氏(工学院大学附属中学校・高等学校 校長)は今回の共通テストについて、次のように講評しています。

「今回の大学入学共通テスト「情報」は、「情報I」「旧情報」ともに、「情報」らしい良問でした。分野別のバランスならびに問題の量も適切です。平易な設問が多く、難問はありませんでしたが、 試験実施について様々な意見がある中で、初年度としてはこれが最適解だと思います。」

大学入学共通テスト「情報I」「旧情報」解説(日本文教出版) より

 

今後の社会における情報教育の重要性

 新教育課程で「情報I・II」が設定され、新たな教科として共通テストで出題されることが公表された際、情報の免許をもった教員が少ない状況が明らかになり、地域や学校における教育格差が問題視されました。そして、共通テストの開始年度を遅らせてほしいという声も多数ありました。

 しかしながら、現代社会では、情報技術があらゆる分野で不可欠なものとなっています。とくに、AIやビッグデータ、IoTなどの技術革新が進む中で、これらを理解し活用できる人材が求められています。

 「情報I」の共通テストは、こうした社会のニーズに応えるための重要な第一歩と言えるでしょう。また、教育現場で注意しなければならないことは、「共通テストで高得点をとる」ことを第一の目的にしないことです。今後も情報教育の充実が進むことで、多くの若者が情報技術を駆使して新しい価値を創造し、社会に貢献できるようになることを期待します。

 

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