MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2025.6.13

第27回 大阪・関西万博は、学びの宝庫《その1》

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

2025年4月13日より開催されている大阪・関西万博では、単に最先端の技術を「見る」だけでなく、「体験する」「つながる」といった、学習者の視点を意識した学びの機会が多く用意されています。今回から2回連続で、万博の魅力を通じて、教育のあり方について改めて考えてみたいと思います。

学習者の視点で教育を考えよう

 教育においては、指導者の視点ではなく学習者の視点で物事を捉えることが非常に重要です。なぜなら、学びの主役は指導者ではなく、あくまで学習者自身だからです。指導者がどれほど優れた知識や経験を持っていても、それを一方的に伝えるだけでは、学習者の理解や成長にはつながりにくいものです。

 学習者の視点に立つということは、彼らがどこでつまずき、何に興味を持ち、どのような方法で最もよく学べるかを理解しようとする姿勢を持つことです。例えば、難しい概念を教える際、教師の説明が理論的に完璧であっても、学習者が具体的なイメージを持てなければ、理解は深まりません。だからこそ、学習者の経験や関心に寄り添い、わかりやすい例や体験を通じて教える工夫が求められます。

 さらに、学習者自身が「学びたい」と感じられる環境づくりも欠かせません。自分の意見や疑問が尊重されることで、学ぶ意欲も自然と高まっていきます。このように、学習者の立場に立つことは、理解を深め、自発的な学びを促す鍵となり、教育の本質的な目的にも直結しているのです。

創造性を高める様々な体験

 4月13日から、大阪市此花区・夢洲にて「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催されている大阪・関西万博。世界158の国と地域、7つの国際機関が参加し、最新の技術や多様な文化を紹介する場となっています。

 会場のシンボル世界最大級の木造建築「大屋根リング」です。全周約2キロメートル、高さ約12メートルという圧巻のスケールを誇り、リング上部「スカイウォーク」からは会場全体や大阪湾の景観を一望できます。各国のパビリオンでは、それぞれの文化や技術を実際に体験することができます。会場内では、音楽フェスティバルやスポーツイベント、伝統芸能の公演など、多彩なプログラムが展開され、日本の文化や多様性についても深く知ることができます。

 テーマを表現する「シグネチャーパビリオン」は8つあります。数あるパビリオンの中から、今回は音楽家・数学研究者・STEAM教育の中島さち子氏がプロデュースする「いのちの遊び場 クラゲ館」を紹介します。創造性と共生をテーマにしたこの革新的な空間は、遊びや学び、芸術を通じて、訪れる人々が生きる喜びや楽しさを感じ、共に“いのちを高める”体験を提供します。

クラゲ館

 クラゲ館の中心的なコンセプトは「創造性の民主化」。中島氏は、多様な背景を持つ人々が共創するプロセスを大切にしており、視覚や聴覚に障害のある方、車椅子利用者、色々な国・民族の方など、さまざまなメンバーとの協働によって、誰もが参加しやすいインクルーシブな空間を実現しています。

 館内では、世界中の楽器に触れたり、触って不思議な音や光を出したりと、感性を刺激するさまざまな体験が可能です。毎日のように開催される多様なワークショップでは、来場者一人一人が自らの創造性を遊びながらふと発見し、高めることを目指しています。

クラゲ館でのAR(拡張現実)を用いた遊び「ごちゃまぜオーケストラ」

「創造性の民主化 ~つくる喜びを全ての人に!~」
中島さち子さんから未来を担う子どもたちへ

中島さち子さん

 万博とは何か? どんな未来が待っているのか……? こうした問いに対して答えていくのは、実は私たち一人一人だと思っています。私たちの信念は、万人万物は実に多彩で爆発的な創造性を持っている! ということ。弱さも価値であり、私たちはみんなみんな違うからこそ、まるで多様な楽器が協奏して生まれる素晴らしいシンフォニーのような珠玉の「今」が生まれる。今回、クラゲ館は一万人以上の、0~120歳の子どもたちによって生まれています。五感を使う、テクノロジーやアートや数学や音楽の溢れる遊び場。祭りや郷土芸能も溢れています。また、これは万博開催中だけのプロジェクトではありません。永遠に終わらない「多様ないのち輝く未来社会」への旅路なのです

 ぜひ、クラゲ館や万博にきて、自分も未来のカケラを多様な仲間と協奏していくことができる! というワクワクや喜びを感じてみてください! 万博では、さまざまなイベントも開催されます。8月6日~10日は、EXPOメッセ「WASSE」にて、テーマ事業「いのちを高める」のシグネチャーイベント「世界遊び ・学びサミット」が開催されます。特に8日、9日は日本や世界のさまざまな学びや遊びに関心のある先生や仲間たちが集う「未来の地球学校」による、多彩なワークショップやトークなども盛りだくさん。ぜひ、お立ち寄りください。

単なる見学にとどまらない学びの経験

 1970年に開催された大阪万博では「月の石」や「人間洗濯機」などを一目見ようと、多くの人々が詰めかけました。あれから55年、最先端の技術に触れるという点は変わりませんが、今回の万博では学習者の視点が随所に取り入れられており、来場者の「感じ方」「関わり方」は大きく変わっています。会場内での体験の数々は、単なる見学にとどまらず、深い学びへとつながる貴重な経験となります。そして、その経験が直接的・間接的に、子どもたちの成長を促すことでしょう。

 大阪・関西万博は、最新技術や世界各国の文化に出会えるまたとない機会です。実際に足を運び、その魅力を全身で体感してみてはいかがでしょうか。

Category カテゴリ―