国際バカロレア(IB)といえばディプロマ・プログラムがもっとも注目されるが、実はIBにはそれ以外にも教育プログラムがある。今回は、小学校等が導入するIBプログラムであるプライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)を紹介する。
4つの国際バカロレア
国際バカロレアには、次の4つのコースがある。
プライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)
3歳~12歳を対象。精神と身体の両方を発達させることを重視したプログラム。どのような言語でも提供可能。1997年設置。
ミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)
11歳~16歳を対象。青少年に、これまでの学習と社会のつながりを学ばせるプログラム。どのような言語でも提供可能。1994年設置。
ディプロマ・プログラム(DP)
16歳~19歳を対象。所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格を取得可能。原則として、英語、フランス語又はスペイン語で実施。 1969年設置。
キャリア関連プログラム(CP)
16~19歳を対象。生涯のキャリア形成に役立つスキルの習得を重視した、キャリア教育・職業教育に関連したプログラム。一部科目は英語、フランス語又はスペイン語で実施。2012年設置。
これまでこのコラムでは主にDP について紹介しているが、「世界平和の構築」を目指すことや「他人との考えの違いを認めて他人の意見を受け入れる」姿勢などは、DP に限らず、他のコースでも共通なものである。
5年ごとの項目チェック
さて、今回は4つのうち、最も学齢が低いPYP について見ていきたい。
先日、広島県福山市にある英数学館小学校でPYP が認定された旨の記者会見が行われた。いま、日本には英数学館を含めて5校の小学校でPYP が導入されている。この5校では、日本の学習指導要領をPYP の要件を満たしながら展開される。
PYP の認定を受けるために、PYP のカリキュラムをこれまで2年間実践してきた。すべての教員がIB の理念を理解して実践することが求められている。その様子を国際バカロレア機構(IBO )が視察して、116項目のうち33項目をまずクリアしていることを確認して、認定を得た。
4年後のIBO による、実地調査が次に課されている。さらに以降は5年ごとに調査が入る。日本の大学のように認可を受けて完成年度を超えれば教員の要件等が実質不問になるようなことはない。できていなければ、容易に認可を外される。
「単元ありき」ではない実社会につながる学び
授業は、学習指導要領を教科書の単元ごとに順番に学ぶのではなく、教科の枠を超えて身近なテーマを軸に再編されている。例えば、「水の循環」をテーマに学ぶときに社会の単元も理科の単元も入る。
実社会は教科で輪切りにされているわけではない、生活するうえで身近なテーマで学んだものを学習指導要領の単元にあてはめていき、テーマをいくつも学ぶことですべての単元を終えていく。そのため、テーマの選び方から単元の組み合わせ方まで含めたカリキュラムマネジメントをしっかりと行うのである。その結果、この2年間の実践で、児童は、前向きに学習に取り組む様子が顕著になり、学習意欲が高まっているそうだ。
こうしたカリキュラムマネジメントは、福山市の北にある神石高原にできる「神石インターナショナルスクール」(日本初の学習指導要領を英語イマージョンで教える合宿制小学校)でも実践される予定だ。
日本の学びはIBを目指す
今回の学習指導要領の改訂にあたり、カリキュラムマネジメントの重要性が唱えられている。知識爆発の時代に単元ごとに教えていては社会や技術の進展に間に合わなくなる。だから概念を重視して大括りに知識を獲得していく必要があるのだ。このことから将来を見据えると、日本の学習指導要領は確実にIB 的になっていく。そして、このような教育の多様化こそ、今回改訂のポイントなのだ。