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ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2020.6.12

第9回 なぜIB校は一斉休校下でも最高水準の教育を提供できたのか?

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

 

試験中止でも評価ができる

covid-19 が世界中で猛威をふるっている。まずは感染された方々に心からお見舞い申し上げる。

このウィルスの影響により、日本でも国家公務員試験や司法試験などが延期される事態となっている。これからその他の選抜試験がどのようになっていくのか注目している。受験生に不公平感が残らないような試験が実施されることを心から祈っている。

世界的な統一試験である、国際バカロレア(IB)のディプロマプログラム(DP)の最終試験も直近の試験は中止となった。今後も世界各地で感染の状況に注意を払いながらの実施判断が余儀なくされるだろう。

しかし、IB校の場合、最終試験がなくなっても生徒の進路が大きく不利になることはない。なぜなら、各校が工夫に工夫を凝らして最終試験のスコアに相当する評価を出すことができるからだ。日常的にアセスメントをしっかりとしていて、それを他者が評価できる仕組みが教育活動の中に組み込まれている

 

授業はオンラインでほぼ問題なし

日本ではこのウィルスにより2月下旬に「全国一斉休校」が要請されたのち、全国的な「緊急事態宣言」が発出されて、5月までの長期間にわたり、ほとんどの学校が休校状態にあった。高校では一学期の中間テストもできない状態だ。

同じ状況の下で、IB校はどうだっただろうか。

実はほぼ問題なくオンラインで授業が続けられた。そもそもIBではレポート提出などが普段から多く、生徒を評価する材料は豊富にある。これらをパフォーマンス評価(ループリックを活用)により的確に評価している。

前回、紹介したIB校の英数学館中学校・高等学校でもオンライン授業が行われた。高校IBクラスでは、寮生活をしていた生徒が地元の沖縄県に帰っていたが、なんの問題もなくオンラインで受講していたそうだ。同小学校のプライマリー・イヤーズ・プログラムでも日本では珍しいオンライン授業だ。分散しての登校を挟みながらとはいえ、小学生がオンラインで授業を受けることはなかなか難しい。小学生であれ、高校生であれ、どの学年かに関わらず、普段からICT を当たり前のものとして活用しているからできることである。

先日、知り合ったベトナムのIB校に通う日本人の生徒も、ロックダウンにより外出規制がかかる中でも、授業がオンラインによって滞りなく進んで行くことに驚き、また、学習が足踏みしないで済んでいることに安心している様子だった

一方で、日本の学校はこれからGIGAスクール構想※1によりICT基盤が整備されようとしている。

これからオンラインによる授業方法もどんどん開発されていくだろう。オンラインとオフラインを融合したハイブリッドな授業、ブレンディッド・ラーニング※2は世界的に注目されており、その効果が高いことが示されている。大いに期待したいところだ。

※1 GIGAスクール構想…文部科学省が推進する「一人一台コンピューター」や「校内高速通信ネットワーク」などを整備して、ICTを活用した教育を推進する計画。

※2 ブレンディッド・ラーニング(ブレンド型学習)…オンラインの教材などを取り入れて、生徒自身が「いつ、どこで、どのような順序やペースで学ぶか」にある程度の裁量を持つ新しい学びのあり方。

 

困難な状況にも揺るがない想い

国際バカロレア機構はスイス・ジュネーブに設立された教育機関である。設立の目的の一つは、国際組織で働くために世界各国から集まった人たちの子弟が、母国に戻ったときにスムーズに高等教育を受けることができるようにしたいということであった。設立に関わった初代事務局長のアレック・ピーターソンは、世界最高水準の教育として国際バカロレアのプログラムを開発したが、その想いは現在にも通底している。

たとえウィルスにより教育が困難な状況になったとしても、最高水準の教育を提供しようとする。その姿勢があるから、速やかにオンライン授業が実施された。国際バカロレアの教育を充実させるのは、当初から変わらないこの想いなのだ

 

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