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ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2020.12.18

第11回 キーボード入力がGIGAスクール構想の鍵

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

 

ようやく始まった日本でのEdTech革命

コロナ禍によってオンライン学習の可能性がクローズアップされたことは前回も述べた。日本においてはGIGAスクール構想によって小学生高学年や中学生に情報端末を配布するとともに学校のICT基盤整備がなされることに期待がかかっている。ただ、校内だけの情報機器の活用ではどうにも効果が薄い。特に今回のように一斉休校になった時には家庭で使えることが大前提となるからだ。さらに今後は高校での一人一台環境を整えていくことになるだろう。

そして、ここで合わせて注目され始めたのがEdTechである。経済産業省が「未来の教室」というEdTech研究会を立ち上げたのは20181月であり、これを機に日本でも大いに注目されている。筆者も専門委員としてこの研究会に関わり、第二回の研究会ではゲストスピーカーとして今後の議論を方向づける発表を行なった

この有識者会議は、当時の世耕弘成経済産業相が「これまでにないスタイルの審議のあり方を追求せよ」との指令もあり、ユニークな試みがなされた。例えば、約100人の専門委員が委員とともにグループワークによってEdTechや教育のこれからのあり方について集中して議論することを何度か繰り返して、そこから見えてきた課題を研究会で議論しつつ、提言書にまとめていく。さらにその提言書を元にして政策を打っていく。

GIGAスクール構想は文部科学省の政策であるが、経産省のこの研究会が端緒であると言っても過言ではない。また、GIGAスクール構想と合わせて、経産省の予算にてEdTech導入補助金も用意された。プログラミング学習教材を提供するライフイズテックでは、この導入補助金を利用する教育委員会等を通して、全国700校にプログラミング学習教材を提供することになった。

 

次のハードルは実際の教室での運用

こうしてEdTech後進国の日本でも、他国に比べて周回遅れでありながらも、それを解消すべく動き出したのだ。

しかし、問題がないわけでもない。行政がいくら資金を投じても、現場の教室ではどのくらい活用されるかは未知である。

例えば、教室の机を思い浮かべてほしい。そこに、教科書、ノート、筆箱、そして、タブレットあるいはノートPCを置く。さて、教科書とタブレット等を開いて、ノートを取れるだろうか。なかなか厳しい。では、机を大きくすれば良いか。そうすると、いまの教室に定員通りに生徒児童を座らせるだけの広さがない。教室を増やせば教室も教員も増やさなくてはならない。机を買い替えるだけでは済まないコストが発生する。一方で、「机の上には授業に関係のないものは載せない」と教員が指導するのは皆さんが経験してきた通りだ。だから、教科書、ノート、筆箱以外は引き出しに。あれ? タブレット等は引き出しの中か。

では、いかに解決するか。デジタル教科書を導入すれば机の上は広くなるが、費用面での負担も増える。現実的な方法は、タブレットのキーボードを使って、タッチタイピングで入力できるように練習して紙のノートを使わなくすることだろう。あるいはタッチペンを活用して手書きノートをクラウド等に保存するという方法もあるいずれにしても、タッチタイピングを習得しておけば、将来的にも入力で手間取ることなく、PCを操作できるようになる。

IB校では、以前から積極的にノートPC等を活用する授業が展開されている。以前にも書いたが、こうした日常があったから、covid-19が感染拡大する中で、スムーズにオンライン授業に移行できたのである。日本においても日常的な学習ツールとしてICTを活用することはもはや避けられないのだ。

 

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