MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2021.3.5

第12回 「主体的・対話的で深い学び」で日本の教育はIBに近づく

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

 

新しい「学力」:非認知能力

学習指導要領が、2020年度から小学校が改訂され、2021年度から中学校、そして2022年度から高校が改訂される。知識は溜め込むものではなく使うものだ。仲間と協働して課題解決をする。探究的にわからないことを知りたいという気持ちを大切にする。わからないことがわかれば、さらにわからないことが出てくる。このように「問い」を連鎖させて深く学ぶ。「主体的・対話的で深い学び」といったスローガンも登場している。

知識、技能を用いて思考したり表現したり判断したりする、認知能力も大切だが、学習に向かう気持ちや主体性、やり切ることなど、認知能力ではない、情動的な能力も大切である。これらの認知能力、情動的な能力をバランスよく養うことが重要になる。この認知能力と情動的能力を合わせて、文科省は「学力」(学力の3要素)と位置付けた。

この流れを、海外にいる国際バカロレア教育(IB)関係者は「学習指導要領は着実にIBに近づいてきている」と評価する。問いを重ねて深く学ぶ「探究学習」、知識よりも上の階層である概念を学ぶ「概念学習」、経験から学ぶ「経験学習」など、これから日本の教育でも重視される要素が既にIBにはあったからだ。

 

大学入試でも進む改革

こうした考えは、学習指導要領に留まらず、2020年から改革された大学入試にも強く求められた。この大学入試改革は、高校教育、大学入試、大学教育を一体的に改革するものとされて、従来のAO入試(現・総合型選抜)、推薦入試(現・学校推薦型)、一般入試(現・一般選抜)のすべての選抜方式で、これらのすべての「学力」を問うように大学に求めている。

「主体的・対話的で深い学び」をいかに日本の大学の選抜試験、特に一般選抜のような学力試験で評価するかはなかなか悩ましい。情動的スキルは、当初、eポートフォリオを提出させて評価することも考えられたが、いかに評価するかが定まらないなど、まだまだ課題がある。日本では、選抜試験において客観性や再現性を重視するあまり極度な公平性を求める文化がある。そうした中では情的スキルを評価することはハードルが高い。「探究学習」などで培う、未知の課題を解決する能力なども同様だ。

 

日常的な問題意識が問われた慶應の小論文

しかし、大学も手をこまねいているばかりではない。今年度の慶應義塾大学環境情報学部の小論文は小問で論理を問うた後に、世の中の「不条理」をその理由とともに15個挙げさせて、そのうちの3つに解決の方向性と方法について、解決の鍵となる技術革新、アイデアを含め、できるだけ具体的、定量的、かつヴィジュアルに説明することを求めている。

不条理という課題を設定して解決の道筋を問う。これまでに仲間と協働してプロジェクト型学習などで課題解決に挑んだかどうか、日常的に問題意識を持ち、その解決のために仮説検証を繰り返すような思考実験しているかどうかを求めているように捉えられる。

知識を単に溜め込むのではなく、知識を再構成して概念を理解したり、知識を活用して課題を解決したりする問題は、この慶應義塾大学の問題に限らず、共通テストを含めて、増えていくだろう。

いずれにしても、これらはIBで学んでいれば日常的なものであり、特にこれらの問題のために対策を必要するものではない。

こうして日本の教育も、一歩一歩、IBに近づいていくのだ

 

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