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ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2021.6.11

第13回 大学入学共通テストが目指す探究的な学力の測定

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

 

これまでの共通試験との違い

20211月、大学入学共通テストが始まった。

大学共通第1次学力試験(共通一次)から始まった「共通試験」(志願者に課される統一試験)が大学入試センター試験(センター試験)を経て大学入学共通テスト(共通テスト)になった。これまでも難問奇問を廃して標準的な出題で基礎基本となる学力を測定するものとして共通試験は実施されてきたが、共通テストはこれまでのものとどのように違うのかをまず考えていきたい。

共通一次は国立大学、公立大学と産業医科大学が一次試験として活用するものとして5教科7科目を必須として始まった。その継承であるセンター試験では私立大学(最終的には短期大学にも)にも参加を認めて、それぞれの大学が自由に活用できるようになった。国立大学のAO入試等でセンター試験を課すことで学力を担保するケースがあったが、共通テストでは早稲田大学の学校推薦型でも活用されるようになった。

この共通テスト、実施前に民間英語4技能テストを課すことを止め、さらには国語、数学の記述式の出題も頓挫したことは周知の通りである。

そもそも4技能テストは大まかな枠組みで成績評価することで複数の試験を同一に扱おうとする、資格試験的要素が強かった。それを1点刻みで評価する競争試験である共通テストに混入することは混乱を招くことになるのだ。

記述式も、予定されていた出題で問うべきことは従来のマークシート方式で十分に測れるようなものだった。国語でも数学でも課題解決を求めたが、実際に出題された国語、数学を見れば、その要素も十分に加味されている。国語は複数の素材文を検討することで、より実践的、現実的な言語活動や思考を評価するものになっていて、記述式が目指したものを代替している。数学はこれまで小問による誘導に従い結論を導き出すものであったが、共通テストではそこからさらに一歩進めて、そこまでの解法の考え方を使って日常の問題解決数学的思考をさらに深めるような出題がされている。

これらは来年度から高校で導入される新しい学習指導要領の先取りであり、探究に結びつく学習スタイルを日常の学習の中で求めるものでもある。

 

日常の学習で求められる問いの連鎖や思考の深まり

このような共通テストの特徴である、問いの連鎖や思考の深まりを求めていくような出題には、受験生の思考の流れを日常から考えることが求められる。記述式や論述式であれば出題はしやすいが、マークシート方式のような多肢選択型の出題ではなかなか難しい。大学の個別試験にも同様の方向性が望まれるが、出題者である大学関係者にそうした余裕はあるのだろうか。そして、高校現場は対応できるだろうか。

これまでのように、演習問題を活用して解法を授けるだけのような授業では、生徒は解法をなぞるだけであり、演習問題の解答をきっかけに自ら問いを立てて思考を深めていくようなことはない。そうした思考を深めるための問いの連鎖に日常的に慣れておかないと、今後、共通テストの出題が高度になると太刀打ちできない。今回は新しい学習指導要領の先取りであり、コロナ禍における学習の遅れに対応するために若干の手心を加えられた可能性は大きく、平均点も高くなったが、新学習指導要領で高校3年間を学んだ生徒が受験する2025年度には高度化することは十分に予測できる。

高校教育は探究的な学び方にうまく転換できるだろうか。国際バカロレア(IB)は探究学習ゆえに理論と日常を常に往還した授業がなされている。日本の高校教育が目指す姿として、十分に参考になるのではないだろうか。

 

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