MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2021.12.10

第15回  IBのミッションを実現する「スポーツ」の力

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

 

「スポーツ」がもたらす地域社会の活性化や生涯の楽しみ

 経済産業省サービス政策課長の浅野大介さんが『教育DXで「未来の教室」をつくろう』(学陽書房) という本を出した。これまで教育産業室長として「未来の教室」を展開し、GIGAスクール構想を後押ししたりEdTechを推進したり、さらに新しくできたデジタル庁で教育DXを担当するなど大活躍である。

 浅野さんとは「未来の教室」とEdTech研究会で共に議論してきたが、浅野さんに初めて会ったのは筆者の国際バカロレアについての講演会場だった。知人に紹介されて講演を聴きに来てくれたのだ。その後、筆者は「未来の教室」のワークショップ、研究会でのゲストスピーカー、実証事業などに関わってきた。最近では、STEAMライブラリーのコンテンツのひとつに監修者として関わっている。

 浅野さんは2021年「スポーツ産業室」を立ち上げた。元々、スイミングスクールやスポーツジムは経済産業省の所管である。日本の高校生は部活動で活躍するが欧米の高校生は地域のスポーツクラブで活躍しており、地域の活性化や生涯スポーツに結びついている。これはかねてより文部科学省も問題意識として持っていたことでもある。スポーツ産業室では「スポーツコンテンツ・データビジネスの拡大に向けた権利の在り方研究会」をスポーツ庁とともに立ち上げ、DX時代のスポーツ産業の振興を図る。

 そもそもスポーツは第二次安倍政権以来、成長産業の一つとして注目されていた。大学においては、アメリカのNCAA(全米大学スポーツ協会)の日本版であるUNIVAS(大学スポーツ協会)がスポーツ庁の主導によって設置され、大学スポーツの振興とそれによる地域、経済、社会の発展に貢献することを目指している。

※「学びのSTEAM化」実現の第一歩として開発されたデジタルコンテンツライブラリー
https://www.steam-library.go.jp/

 

「健康な心身」とは何か

 2020年から「体育の日」は「スポーツの日」に改められた。「体育の日」は「国民がスポーツに親しみ、健康な心身を培う日」とされたが、「スポーツの日」は「スポーツを楽しみ、他者を尊重する精神を培うとともに、健康で活力ある社会の実現を願う」ことを意義とする。

 ここで注目することは「他者を尊する精神を培う」と「健康な心身」の中身を具体的に表現しているところだ。

 スポーツ基本法には「スポーツは、次代を担う青少年の体力を向上させるとともに、他者を尊重しこれと協同する精神、公正さと規律を尊ぶ態度や克己心を培い、実践的な思考力や判断力を育む等人格の形成に大きな影響を及ぼすものである」と定義されている。「他者を尊重」することに留まらず「協同する」精神を培うものだとしている。

 スポーツは、個々の能力には違いがあることを歴然させる。競技のパフォーマンスには個体差が大きく影響する。「他者を尊重する」ことは、つまり、人との違いを違いとして認めることである。スポーツは、こうした「他者理解」を踏まえたうえで「自己理解」することによって「個人の成長」を促すものである。それに伴って、身体能力が向上されて技能を伸ばしていく。

 国際バカロレアのミッションには「人が持つ違いを違いとして理解して自分とは異なる考えを持つ人々にもそれぞれの正しさがあることを認めることのできる人」とあり、「他者理解」を重視している。

――「体育」から「スポーツ」へ。

ダイバシティを、性別や人種、民族、国籍といった形式で語りがちな日本社会において、「他者を尊」することから気づく、身体能力の個体差や思考の違いといった「内なるダイバシティ」にも目を向けられるようになってほしいものだ。

 

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