まだまだ聞きなれない「国際バカロレア教育」。「国際」という言葉から誤解されがちですが、実は英語教育でも国際理解教育でもありません。そして、この教育プログラムを理解すれば、日本の教育の大きな方向性が見えてきます。この連載では、教育ジャーナリストの後藤健夫氏に、国際バカロレア教育を通して日本のこれからの教育を考えてもらいました。
いま、国際バカロレアが注目されている。
次期学習指導要領が公示された。海外の国際バカロレア関係者からは、その内容が徐々に国際バカロレアのカリキュラムに近づいているとの指摘もある。日本の学習指導要領は、アメリカをはじめとする多くの国々が注目するところである。その学習指導要領が徐々に近づいていく先に国際バカロレアのカリキュラムがある、つまり、国際バカロレアが教育の潮流のど真ん中にあるということだ。
とはいえ、この国際バカロレア、あまり日本では馴染みがない。まずはその概要を紹介しよう。
国際バカロレアは、ちょうどいまから50年前、1968年にスイス・ジュネーブで始まった教育プログラムである。ジュネーブにある国際機関で働く人たちが自分たちの子どもが出身国に帰ったときに、大学などの高等教育へスムーズに進学できるように、世界最高水準の教育をしようとしたところに端を発する。血で血を洗うような二度の世界大戦や内戦を繰り返したヨーロッパに設立したことは、世界平和を構築することに貢献することをミッションとした国際バカロレアに大きく影響を与えている。
国際バカロレアは、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的にしている。人が持つ違いを違いとして理解して自分とは異なる考えを持つ人々にもそれぞれの正しさがあることを認めることのできる人として、積極的に、そして共感する心を持って生涯にわたって学び続けるよう働きかけていく教育プログラムなのだ。
国際バカロレアとはどんなものかを解説しながら、こうした教育プログラムが、いまの日本の教育に与える影響やこれからの教育の在り方への関与について、本連載を通じて考えていきたい。
方法論としては、次期学習指導要領の方向性や経済産業省で議論がなされている「学びと社会の連携促進事業」など、日本の教育の大きな流れを、大局観を持って考えていくことになる。特に、経済産業省は昨年夏に「教育サービス産業室」(現・教育産業室)を起ち上げ、教育に具体的な関心を持ち始めたことには大いに注目をしている。その点についても、何回かに分けて書いていきたい。
なお、大局観とは「①物事全体の動きに対する見方。形勢判断。②囲碁や将棋で、ある局面における優劣の判断。形成の見方」(小学館「精選版 日本国語大辞典」)という意味である。今回、この連載では教育の流れを少し高みから見て大掴みにしてみることを心がけたい。こうしたことで5年、10年先のことが見えてくるのではないだろうか。教育という日常的な問題もこうした捉え方をすることで、違った見方をすることができるのではないだろうか。
また、現在、大学入試改革が進行している。2021年度大学入学者選抜は大学入試センター試験の廃止にはじまり、英語教育や主体性等の評価にも注目が集まっている。いわゆる文部科学省が言う「学力の3要素」を大学入学者選抜で審査するようになるからだ。従来は「知識・技能」が中心であった。それに「思考力・判断力・表現力」を加味して「主体性・多様性・協働性」(学びに向かう力等)をも求めることになる。そのあたりの大学入試の変化などの最新情報も取り込んでいけたらと考えている。
こうしてこの連載で書こうとしていることをつらつらと挙げてみると、とても欲張りな連載になりそうだ。
いずれにしても教育の大きな流れを、国際バカロレアに引きつけたり、現実に起きていることから類推したりしながら、一緒に考えることができたら、この連載も多少なりともみなさんのお役に立てるのではないだろうか。
どうぞしばらくお付き合いください。