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ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2022.9.16

第18回 2回の共通テストから見えてくる日本の教育の行方(2)

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

 

大学入学共通テストも昨年度、今年度と2回実施されたことになる。来年1月の3回目の実施を前に、この2回の共通テストを振り返ってみると、国際バカロレア(IB)で展開される教育と通じるものが見えてくる。前回、今回と2回にわたってこれを説いていきたい。

 

22年度の数学の平均点は何を示しているのか

 大学入学共通テスト2022年度の本試験で話題となったのは数学の平均点の低さだ。今回、数学で思うように得点できなかった生徒は、高校の先生らに聞くと「解法パターンの暗記」型の生徒だった。いかに知識を活用して概念を掴むか。そのためには具体(日常)と抽象(一般化)を往還することやものごとを構造的に捉えることが求められている。さらに、解答をする過程の思考をほかの事象に当てはめて解く問題も課されている。これは思考の転移と言われる高度な学力である。

 一方で、大学入試センターは、数学の平均点が低いことの要因計算量さにあったとして計算量を調整することを発表した。出題方針を見直すわけではない。共通テストにおいて、日常の中で、教科科目の見方・考え方を重視して、知識を活用しながら課題解決を図ったり探究したりする出題方針に変わりはないということだ。

 ある公立進学校では、数学の授業をグループワークで展開し始めた。その学校によると、価値観や物事の見方が違う人たちと共に1つの問題を考える中で、多様な意見や考えを取り入れながら問題に向き合っていくことが大事だからだという。数学でも過去問演習で概念を獲得する学び方から「探究」を重視した取り組み方への転換を求められているのかもしれない。思考の転移求められるような問題は過去問を解いたところで対応できるものでもない。高校の先生らと話をしていると「その場でなんとかする力」を問われているのではないかと言う。計算量が多く「速くて正確な計算力」を求められたことも「その場でなんとかする力」と言える

 

「その場でなんとかする力」求められ始めた

 この「その場でなんとかする力」は、オックスフォード大やケンブリッジ大の選抜試験で行われる「インタビュー」(面接試験)で顕著に問われる力だ。インタビューでは「あなたは自分を利口だと思いますか?」「歴史は次の戦争をとめ得るでしょうか?」「なぜ海には塩があるのですか?」「火星人に人間をどう説明しますか?」「どうしたら建築で犯罪を減らせるでしょうか?」などを問われる※1。さて、あなたはどのように答えるか。

 ここで展開される「問い」は一言で表すと無理難問である。もちろん正解などない。いかに自分の経験や知識を総動員して「問い」と格闘するか。その様子を評価されているのではないか。解答にあたり、一つの「問い」を考えていると、新たな「問い」が生まれてくる。「問い」が連鎖するのだ。その連鎖によって思考を深めていく。そして、その思考を言語によって外化する。まさに「探究」だ。

 文部科学省が各大学に示す「大学入学選抜要項」では「学力の3要素」の「思考力、判断力、表現力」を次のように示している。

「自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」

 国際バカロレア(IB)は「探究学習」である。そして、IBの初代事務局長であるアレック・ピーターソンはこのようなことを50年ほど前に言っている※2

「生徒が高度な教育を受けたかどうかは、試験で何点取れたかではなく、まったく新しい状況で何ができるかによって確かめられる」

 さて、我が国の教育で「その場でなんとかする力」は培われているだろうか。

 

※1 ジョン・ファーンドン (), 小田島恒志, 小田島則子 (翻訳) 『オックスフォード&ケンブリッジ大学 世界一「考えさせられる」入試問題 「あなたは自分を利口だと思いますか?」』 (河出文庫) 河出書房新社 , 2017

※2 Sue Bastian, Julian Kitching, Ric Sims(著),後藤健夫(編集),大山 智子(翻訳)『セオリー・オブ・ナレッジ世界が認めた「知の理論」』ピアソンジャパン,2016

 

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