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ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2024.3.15

第24回 「青春ジャック」と探究学習

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

 

多感な年齢に没入することの価値

 私は、学生時代に卒業後就職することになった予備校でアルバイトをしていたが、その頃の浪人生で、やがて仲間のひとりになる井上淳一くんが自分の予備校時代を描いた映画「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」を制作して、このたび公開された。“青春ジャック”。この意味するところは「没入」である。「没入」、つまり、時間も我をも忘れて夢中になることである。

 井上くんは大学受験の頃に名古屋にあるミニシアターに通い詰めるなど、「映画制作」「若松孝二監督」に没入してしまった。つまり、映画制作と若松孝二監督に青春をジャックされてしまったのだ。以来、今日に至るまでジャックされたままである。そして、そのジャックされた心、いま大きな果実を手にすることができた。映画「福田村事件」が大反響を生み、井上くんはその脚本で、2024年日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した。おめでとう。


『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』は3月15日より全国順次公開

 昨年、私もこの試写を観た。1980年代中頃の予備校を懐かしむとともに、多感な年齢の頃に、ひとつのことに没入する価値を改めて確認できた。

 

「キャプテンシップ」「没入」「多様性」

 先日、今春開校するFC今治高校里山校が主催して、大阪から学びを考えるシンポジウム「中高生が夢中になる学校の選び方」が開催された。会の中で、パネルディスカッションが行われFC今治高校の学園長で、サッカー日本代表の元監督・岡田武史さん、東京大・慶應義塾大教授の鈴木寛さん、関西学院大教授の井藤眞由美さん、灘中学・高校元教諭の村上恒男さん、ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンター長の小村俊平さんの5人をパネリストに迎えて、私がモデレーターを務めた。鈴木さんには、教育改革の背景や大学入試における探究学習の影響、井藤さんには国際バカロレア教育と探究学習、村上さんには灘高と探究学習、小村さんには学びのコミュニティとこれからの学校の在り方について、発言を求めて、それらを受けて岡田さんに、自身の教育観、FC今治高校での教育理念について語ってもらった。


シンポジウム「中高生が夢中になる学校の選び方

 こうした対話の中から浮かび上がってきたキーワードは「キャプテンシップ」「没入」「多様性」であった。

 

FC今治高校里山校での学び

 FC今治高校里山校では、午前中に教科の学習を行い、午後は地域に飛び込んで探究的プロジェクト学習を展開する。1、2年次は寮で過ごすが、3年次は空き家を改修するなどして寮を出て街で暮らす。この空き家の改修も、午後のプロジェクト学習として自分たちで行う。畑も耕すし、サッカー場の運営も手伝う。日々が街に溶け込み街で暮らすことに注ぎ込まれる。

 そうした中で「キャプテンシップ」を学ぶ。主体性を持つ周りを巻き込んだリーダーシップだ。プロジェクト学習の中ではとことん夢中になるものを探して「没入」して学ぶ。主体性を持った個々人は多様であるがゆえに、違いがはっきりとする。そうした「多様性」あふれる環境に身を置いて、他者との違いを理解して他者を認めていく。そして、自己を理解する。

 

没入して多様性を認めた人こそがリーダー

 他者との違いを違いとして認める。これは国際バカロレアのミッションにも書かれていることだ。ほかにも国際バカロレア(IB)教育と親和性のある部分がある。教室で学ぶだけでなく、活動や経験を重視することは、IBではCAS(創造、活動、奉仕)として必ず取り組むようになっている

 多感な高校時代を何か没入できることに打ち込む環境の真髄は、多様性を認めるところにある。何かをなすときにひとりではあまりにも微力ゆえに周りを巻き込んでいかないといけない。

 これらのことを実際に体験として得られるように、高校生が夢中になれる、「学びのコミュニティ」を形成するのがFC今治高校里山校である。

 井上淳一くんの「青春ジャック」も「キャプテンシップ」「没入」「多様性」があったからこそ、映画としての作品となる。「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」。この映画は、単なるひとりの映画人の物語ではない。

 何かにジャックされて夢中になることを今治で経験することも悪くはないだろう。

 

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