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ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2024.9.13

第26回 探究学習に強い高大が連携——立命館とFC今治高校里山校の共同研究会

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

先日、学校法人立命館はFC今治高校里山校(学園長:岡田武史 以下FCI)と「探究学習と大学の学びの接続を考える共同研究会」の協定を締結した。その記者会見の模様をレポートする。

 

探究学習で先頭を走る高大が連携

 立命館は、立命館大学と立命館アジア太平洋大学(APU)の2大学、附属中高4校、小学校を持つ学校法人だ。

 附属の立命館宇治高校に国際バカロレア(IB)コースがある。つまり「探究学習」への理解が深く、TOK(知の理論)やCAS(創造、奉仕、活動)のハウツーがあるのだから、探究の評価は得意とするところだ。

 それに、APUの総合型選抜では、「フラワーチャート」という図式を用いて、事実と論理をもとに問いに答えていく、TOKのような出題もされている。

 立命館大学大学院の荒木寿友教授らが立命館宇治中学の「道徳」の授業実践を取り上げた『未来のための探究的道徳 「問い」にこだわり知を深める授業づくり』(明治図書)には、私もIBについての論考を寄稿した。

 「探究学習」においては、日本では先進的な学校法人の一つだ。

 一方で、今年の2月にFCIのイベントとして開催された、岡田武史さんたちとのパネルディスカッションでは、私がそのファシリテーターを務めたので、FCIのことや岡田さんの教育に対する思いは理解しているつもりだ。(第24回 「青春ジャック」と探究学習 参照

 FCIは、この4月に開校した高校であるが、岡田さんの教育への思いを具現化することを目指し、かなりユニークな教育がなされる。今治の町と密接に関わる独自の教育に取り組んでいる。

 午後の授業は「探究活動」に充てられる。好きなことに没入しながら探究を進めていく。

 IBとはカリキュラムは異なるが、FCIの教育思想はIBに通じるところがあり、理想的な「探究学習」の場だと言えよう。

 

入試にどう結びつけるのかが課題

 立命館もFCIも「探究学習」に関しては十分な理解がある学校だが、これが「探究学習」を前向きに評価する高大接続、もっと言えば入試での総合型選抜、学校推薦型における「探究学習」の評価となるとどうだろうか。

 学習指導要領が改訂されて、全国の高校で「総合的な探究の時間」が必須となった。これまで探究学習を先取りしたり、生徒の自主的な活動として取り込んだりする高校もあったが、残念なことに、年間のカリキュラムの中でうまく「探究学習」を展開して成果を上げている高校はどのくらいあるだろうか。授業のコマに追われて課題設定を小さくまとめたり、予定調和的なゴールに導いたりしていないだろうか。コンクールへの参加や論文発表が目的となり、「探究」の本質である「学び方を学ぶ」ことがおろそかになっていないか。

 大学としては、生徒個々の日常的な「探究学習」に注目をして評価したいところだろうが、入試において大学が高校での日常的な活動を知る有効な手立てが必ずしも見つかっているわけではない。願わくば、高校の「総合的な探究の時間」が円滑に運営されて、生徒が生き生きと「探究」によって学ぶことができるような、選抜試験での評価の指針を提示してもらいたいところだ。

 

探究に磨きをかけて大学での学びに繋げる

 立命館は、附属中高やFCIの取り組みを参考にしながら、「探究学習」の選抜試験における評価の指標を開発するとともに、この評価によって大学入学後により良く学べる大学教育を準備したいところだろう。

 FCIにおいては、「探究学習」への取り組みがより正しく評価されるようになれば、生徒も「探究学習」に意欲的に取り組めるだろうし、なによりもFCIの独自の教育に磨きをかけられる。

 今回締結された共同研究会では、途中経過や成果を、毎年、公開の場で報告するとのことだ。どのような成果がもたらされるのか、大いに期待したい。

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