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ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2018.12.14

国際バカロレア教育とこれからの教育 第3回

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

「国際バカロレア教育」は英語教育でも国際理解教育でもありません。それではいったいどのような教育プログラムなのでしょうか。教育ジャーナリストの後藤健夫氏に国際バカロレア教育を通して日本のこれからの教育を考えてもらうこの連載、今回は国際バカロレアが誕生した背景と創設者たちが目指した理念を紹介します。

 

国際バカロレアが生まれた背景

これまで2回の連載では、いま、この時代に国際バカロレア(IB)教育が注目されていることを書いたが、IBの教育がどういったものかについては具体的には記していない。そこで、今回からはIBの教育を少しずつ紹介していきたい。

IBが50年前に始まったことは前回までに触れたが、もう少し詳しく説明すると次のようになる。

IBはスイス・ジュネーブに1968年に設置された。ご存知のようにジュネーブには国際機関が数多くある。そこで働く人の子どもたちが自国に帰ったときに大学への進学がスムーズになるようにしたい、そのために世界の最高水準の教育を子どもたちに授けようという思いから始まったものである。

しかし、結果的には、自分たちの子どもを大学に入学させるだけに留まらなかった。それは、彼らが目指した「最高水準の教育プログラム」が大学進学という小さな目標を超えたものだったからだ

自分たちの子どもたちを大学に入学させることだけを考えれば、当時の日本のように「詰め込み教育」を徹底すれば良かったかもしれない。しかし、IBでは良い教育を受けたかどうかの基準を試験で良い点を取ることに定めなかった。なぜだろうか。

当時は、第2次世界大戦は終わったものの冷戦構造はいまだに残っていた。ベルリンも西と東に分けられたままだ。まだまだ小さな戦争はあちらこちらで起きていた。もちろん、人々の大戦での傷痕も簡単には癒えない。広島、長崎に投下された原子力爆弾は人類を壊滅させる威力を持つことがわかり、そうしたものを人類は手にしてしまった。強制収容所では非人道的な犯罪行為が繰り返されていた。

こうした状況から平和への関心は世界中で高まっており、映画「いちご白書」(1970年公開)が注目されたように大学では学生運動が盛んであった。国際的な機関で働く人々の関心が世界平和の構築に向かわないわけがない。自分たちの子どもが平和な世界を築くことに貢献してほしいと願うのは必然であった。

そこで、世界平和の構築とその維持のためのイデオロギーを実現することを目指してカリキュラムを作り上げていったのだ。そして、大学が有無を言うことなく入学を許可する、厳正な評価に基づいた資格を付与できるようにした。

 

国際バカロレアのミッション

こうした背景のもと、世界最高水準の教育を目指したプログラムが策定された。だから、IBでは、試験で何点をとるかではなく、いかに新しい状況で課題解決ができるかを求めたのだ。このことは、IBのミッションにも強く反映されている。

 

【IBのミッション】(The IB mission)

国際バカロレア(IB)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。

この目的のため、IBは、学校や政府、国際機関と協力しながら、チャレンジに満ちた国際教育プログラムと厳格な評価の仕組みの開発に取り組んでいます。

IBのプログラムは、世界各地で学ぶ児童生徒に、人がもつ違いを違いとして理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人として、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわたって学び続けるよう働きかけています。

 

次回はIBのミッションをもう少し深掘りしていきたい。

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