コアスキルと人間力
様々な分野で女性の活躍が求められる時代、基礎学力、ICTリテラシー、コミュニケーション力、思考力・判断力・表現力、クリティカルシンキングなどの「コアスキル」はもちろん、グローバル思考(グローバルマインドセット)やレジリエンス(生き抜く回復力)といった「人間力」を十分に身につける必要があります。
このことは、将来海外に出ていくとしても、国内に拠点を置くとしても変わりません。なぜなら、来るべきグローバル社会では、日本人が海外に出て行くだけではなく、外国から多くの人々が日本にやって来るからです。
これまでは「私にはあまり関係ない世界の話」だと思っていたグローバル思考や英語運用力が、もはや誰にとっても必須の能力になっているのです。
中学に2つの新しいストリーム
本校は、127年前の創設以来、聖書と英語を教育の柱と位置づけ、「英語の松蔭」との定評を得てきました。第2次世界大戦の勃発を数年後にひかえた昭和10(1935)年ころの記録には、英国人ほかの外国人教員5名が英語と聖書の教鞭をとっていたことがわかります。入学後すぐの英語の授業で、ネイティブ教員からオールイングリッシュ授業の洗礼を浴びたことは、当時の新入生には衝撃的だったと卒業生が語っていました。
近年の加速するグローバル化という時代の変化を受けて、学校の原点に立ち返ることを決めました。そのために新たに「グローバル・ストリーム(GS)」と「ディベロプメンタル・ストリーム(DS)」を開設します。
「ストリーム」は「コース」のような別カリキュラムの学習集団ですが、「コース」と異なるのは、偏差値や入試得点による選別ではない、という点です。GSには英語入試で合格した生徒のみが所属することになります。英語が好きで、入学後の学習に意欲があり、高度な英語運用力を身に付けたいという生徒を対象にします。一方、DSはこれまでの松蔭の長所をさらに生かしたコースです。
「英語の松蔭」を極める中学グローバル・ストリーム(GS)
GSでは、在校中に日常生活の英語は当たり前に話せるレベルとし、中学で英検2級以上、高校卒業時に準1級以上の英語力を目標にしています。そのため、毎日1時間ずつ設定された授業「ICT English」では、アプリを使ったスピーキングのトレーニングや外国人との1対1のオンライン英会話に取り組みます。土曜日には、インターナショナルスクール・聖ミカエル国際学校と提携した英語イマージョン授業「Global English Saturday School」を開講。年間32回の講座は、まさにセミインターナショナルスクールの環境となっています。
英語授業でのエッセイライティング(小論文)やプレゼンテーションもこれまで通り引き続き行います。英語だけを使用するイングリッシュルームでは、毎日、昼休みと放課後にスタッフが常駐し、英語を話す機会がいつも整っています。
進路としては、有名大学の国際系学部や海外大学、併設の神戸松蔭女子学院大学の英語プロフェッショナル専攻などを目指します。
英語での成功体験を成長につなげる中学ディベロプメンタル・ストリーム(DS)
DSは、これまでの松蔭の教育にさらに磨きをかけたものです。ディベロプメントとは「成長」を意味します。ごく普通の女性生徒を成長させ、力をつけることを念頭に置くコースです。そのために鍵となるのはやはり英語です。
本校には「英語は苦手だけど英会話は好き」という生徒が多くいます。中学から本校に入学する生徒は、抜群に学力に優れた生徒ではありません。例えば、中学受験で算数に苦戦して、学ぶ自信を失っている場合もあります。そういった普通の女子生徒が、英語を自分の口で話し、会話できるようになり、その体験を通じて英語を好きになります。英語を話す楽しさを実感し、自分に自信を持てるようになるのです。英語での成功体験を起点に、他教科も学ぶ意欲や将来の進路の決定へとつなげることができます。
また、英語力を高めるために欠かせないのが国語力です。大学入試や検定試験の上位級では、論説文や評論文が題材とされることも多く、日本語に訳して読んでも難しい内容です。そのような意味で英語力向上のカギは国語力(日本語力)のアップにあります。そこで中学では、「国語探求」という科目を新たに設けて、英語力の基礎としての国語力の伸長をはかります。具体的には、音読や書き取りとなどの基礎からはじめて、読解力や表現力、プレゼンテーション力にまで高めていきます。
中学の2ストリームを経て、高校ではLS(ランゲージ&サイエンス)、AA(アスリート&アーティスト)、GL(グローバルリーダー)の3コースへと続き、一人ひとりの自己実現をはかります。
学びながら社会を変えるプロジェクト学習
高校課程では現在、課題解決型学習(PBL)としてBlue Earth Projectに取り組んでいます。これは、今から十数年前にチャレンジプログラムという高3の3学期の教育活動の一環としてスタートした環境学習です。2016年からは高校全学年の取り組みとし、「女子高生が社会を変える」をキャッチコピーに活動を展開しています。今では、全国の十数校の女子高生たちも加わり、大プロジェクトに成長しました。環境大臣や文部科学省からの表彰を受け、OECD日本イノベーション教育ネットワークのボランタリークラスターとして認定されています。
環境問題についてのレクチャーを受け、フィールドワーク、ワークショップなどを通じて、生徒自身が学んでいくと同時に社会を一歩ずつ変えていくことを目指しています。
このプロジェクトに参加した生徒が、その成果や活動実績をプレゼンして、難関私大にAO入試で合格、進学するなど、その取り組みは高く評価されています。
新ストリーム制、それに続く高校の新コース制では、国連のSDGs(持続可能な開発目標)などをテーマに、これまでのBlue Earth Projectで培ったノウハウをもとにした新たな枠組みでのPBLの取り組みを行う予定です。
Open Heart Open Mind
今の子どもたちが大人になる頃、グローバル化はさらに進み、すぐ隣に外国人がいるのが当たり前という社会になっているでしょう。そのような社会で生きる姿勢として、お互いに心を開いて、国籍や民族などにこだわらず、多様な文化や考え方をリスペクトすることが求められます。リスペクトといっても、相手の考えに無条件で従うということではありません。大切なのは、異なる考え方を認め合うことです。
本校のスクールモットー”Open Heart Open Mind”は「心を開いて、思いを自由にして」という意味です。世界の多様性に対して心を開き、偏見や思い込みから思いを自由にする、この精神があれば、グローバル世界のどこででも、前向きに生きていけるでしょう。
私の未来年表 浅井宣光
未来への抱負 | 教育・社会の変革 | 現小6 | |
2022年まで | 創立130周年 新ストリーム制展開(「英語の松蔭」という学校の原点への回帰) 英会話講座(松蔭ELS講座)を軸にした小中連携の拡大 帰国子女の入学・転入大幅増加 |
新高大接続制度の展開 中高教育で講義形式の授業が減少 |
中学生 |
2032年ごろ | 外国人留学生の受け入れ サイエンス教育部門の展開と拡充 |
教育制度の見直しと国際標準化(9月入学制度や6・3・3・4制の変更等) ネットを利用した在宅授業一般化 |
25歳ごろ |
2042年ごろ | 創立150周年 日本にねざすインターナショナルスクールとしての特色教育を展開 |
ボーダーレス社会の浸透で多様性が確実に認められるようになる | 35歳ごろ |
2052年ごろ | 創立200周年を見すえた、新学院構想の策定と実現 | 男女別学校が次第になくなる | 45歳ごろ |